【19話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

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「初めまして。榎並さんの上司の旭です」
 心なしか態度が硬い気がする。会社モードの冷徹課長になってしまったように見えるぞ。もしかして課長、人見知りなのかな。
 対して孝ちゃんは、昔から人懐っこい性格をしている。
「初めまして、咲の友人の杉田です! いまは仕事帰りですか? あ、でもそういう服装じゃないですね」
「自宅に一度戻ってから来たので」
 課長が答えるのを聞いて、わたしはふと気づいた。課長は部屋着だし、わたしも私服姿だ。そして、夜に二人でコンビニに買い物に来ている。
 この状態だと、仕事が終わったあと二人で家に帰り、着替えてからコンビニに来た、という誤解を生んでしまう。まるで課長とわたしが恋人同士みたいだ。
「もしかして、お二人はお付き合いをしているんですか?」
 孝ちゃんはずばりと聞いてきた。やっぱり誤解されている。ちゃんと解いておかないと。
「そうじゃなくて、仕事が終わってからお話ししてただけだよ。ですよね、課長」
「…………」
 ちょっと。なんで黙るのよ。
「あー、そうなのか。咲、相変わらずカレシいないのか?」
「相変わらずって失礼なこと言うね。まあ、いないけどね」
「昔から男っけないもんなぁ。やっと誰かと付き合っても、半年で別れたりするし」
「そういうプライベートなことを上司にバラさないでよ。孝ちゃんは昔から細やかな気遣いが抜けてるんだよ」
 わたしが呆れ口調で言うと、孝ちゃんは明るく笑った。
「悪い悪い。こういうふうだから俺はモテないんだな。お互い売れ残ったらくっつくのも手だな」
「そうだね、そうならないことを祈るけど」
 くすくすと笑ってわたしが言うと、孝ちゃんは旭課長にふたたび目を向けた。
「お邪魔しちゃってすみませんでした。じゃあ俺は買い物してくるんで」
「いえ」
 旭課長は表情を動かさずに軽く会釈をした。勤務中仕様の塩対応だ。やっぱり人見知りなのか。長々と立ち話して、申し訳なかったな。
「──あ、そうだ。旭さん」
 孝ちゃんの呼び声に、課長は訝しげに振り返った。
「家近いんだったら今度メシでも食いに行きましょうよ。コイツ、生意気な割にマジメだから扱いにくい部下でしょう? 賢いけれど察しが悪いっていうか。良かったら付き合い方のコツをお教えしますよ」
 孝ちゃんのフレンドリーすぎるお誘いに、課長はびっくりしたような顔になった。それから苦笑を滲ませる。
「ええ、今度ぜひ。榎並さんは優秀な部下ですが、賢いけれど察しが悪いという点は同感です」
 いきなりわたしの悪口ですか。
「ですよねぇ。仕事もカレシ作りも、両方がんばれよ、咲」
 孝ちゃんは嬉しそうに笑って、飲み物売り場のほうへ行ってしまった。わたしは課長とコンビニを出る。
「立ち話してごめんなさい課長。孝ちゃん──杉田は馴れ馴れしいんですけど、根はいい奴なんです」
「そうみたいだな。榎並さんの友人と話せて、新鮮な気分だった」
 夜道を歩きながら、課長は苦笑した。
「それに、悠長に構えていたら駄目だと認識を改めることができたしな」
「悠長? よくわからないですけど、なんでもクールにテキパキとこなす課長が、のんきに構えるようなことってあるんですか?」
「あるよ」
 このとき課長が見せた笑みが、どうしてかいつもと違う気がして、わたしはどきりとした。なにがどう違うのかはっきりと説明できないんだけど、いつもより印象的で、目を奪われたことは確かだ。
「榎並さんは、小さいころ弟さんと公園で遊んだりした?」
 唐突に話題を変えられた。左側に、行きにも通った公園がある。
「はい、もちろんありますよ。うちは母親が遅くまで働いていたので、日暮れまで弟と二人で遊んでいました。団地に住んでいたので、敷地内に公園があったんです」
「それは遊びやすくていいな」
「はい。いちばん人気だったのが二人乗りのゆらゆらブランコで、その次がぞうさんのすべり台でした。わたしはブランコをめちゃくちゃに揺らすのが好きだったんですけど、弟はビビリなので怖がるんです。無理やり乗せたら大泣きされちゃって、母親に叱られました」
 旭課長は笑った。
「そのころから榎並さんは勇ましかったんだな。掘れば武勇伝がいくらでも出そうだ」
「そうなんです、昔から男勝りだったんです。どう考えてもモテないですよね。このままじゃ、ほんとに孝ちゃんとくっつくハメになりかねないなぁ」
「俺は好きだよ」
 あまりにもサラリと課長が言ったので、わたしはそのまま聞き流しそうになった。でも、聞き流すにはそのフレーズは強烈すぎた。
 好き? いま、好きって言った?
 いやいや、好きって、部下としてだよね。営業部の戦力としてだよね。そうだよね。ああ、びっくりした。

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