【18話】クールな鬼上司の恋人モードは、甘々溺愛が止まりません

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 旭課長と二人で夜道を歩くのは、ものすごく変な感じがした。これまでも車で送ってもらったり買い出しに行ったりしていたけれど、今回は妙に緊張する。
 なぜなら、買い出しに行くことや送ってもらう行為は、アルバイトの一環だと思えるからだ。こうして、街灯の照らす細い夜道を並んで歩くのはバイトじゃない。
 生ぬるい気温の夜に夏風が心地よかった。緊張が少しだけほぐれて、わたしは課長を見上げる。
「コンビニでなにを買うんですか?」
「え? ああ、明日の朝のパンと牛乳。あとはアイスクリームでも買おうかな」
 セリフの最初が少々どもっていた気がする。もしかして課長も緊張しているのだろうか。そんなわけないか。
「食べ物系ですね。ビールは買わなくてもいいんですか?」
「箱買いして押入れに保管してある。当分困らないぞ」
「好きですねぇ。今度一緒に呑みにいきます?」
 話の流れで聞いてみただけだったんだけど、旭課長がびっくりしたような顔をするから、わたしは怯んでしまった。
「あ、ご迷惑ならいいですよー」
「いや、そんなことない」
 慌てたように課長が首を振る。それから、ちょっとだけ恥ずかしそうに笑った。
「榎並さんと呑んだら楽しそうだ。今度、俺がよく行く居酒屋に連れていってもいいか? 和食なんだけど、料理が美味しいんだ。榎並さんの手料理には敵わないけれど」
 そのしゃべり方と、セリフと、笑った顔がふい打ちだった。ものすごく可愛かったからだ。普段が普段だから、余計にそう感じてしまった。
 思わず頬を赤らめながら、わたしは視線をそらした。すると、ブランコと滑り台のある小さな公園が目に入る。
「こんなところに公園があるんですね。課長も小さいころ遊んだんですか?」
「……ああ。近所の友達と遊んだよ。梨々子が生まれてからは散歩に連れてきたりもした」
 課長の声が暗くなった気がする。どうしてだろうと考えて、課長のお誘いに答えていないことに気がついた。テンパっていたせいで、ついスルーしてしまったのだ。
「ご、ごめんなさい課長。料理の美味しい居酒屋、行きたいです。連れて行ってください」
 慌てて課長に視線を戻すと、課長はふとほほ笑んだ。
「ああ、わかった。今度な」
 しまった。答え方を失敗した。これじゃあ、わたし自身が乗り気じゃないって言っているようなものじゃないか。
 旭課長と呑みになんて、行きたいに決まっている。なんとか誤解を解こうと頭を回転させていると、コンビニに着いてしまった。
「榎並さんはなにか欲しいものある?」
「わたしはとくに……」
「梨々子に飲み物買っていくけど、きみもコーラが好きだったよな。良かったら帰りに持って行って」
 この人はとことんお兄ちゃん気質だ。相手に遠慮をさせないよう、先回りしてくれる。一方でわたしは、誤解を解く術をまったく思いつくことのできない自分の不甲斐なさに、ずーんと落ち込んでいた。
 課長が会計をしているのを、雑誌コーナーのあたりで肩を落としつつ待っていると、ふいに声を掛けられた。
「咲!? おまえ咲だろ。ひさしぶりだな!」
「えっ、こうちゃん?」
 わたしは目を丸くした。孝ちゃん──杉田すぎた孝一こういちは、同じ団地に昔住んでいたひとつ年上の友人だ。体が大きくて兄貴肌の彼は、みんなの人気者だった。
「ひさしぶりだね孝ちゃん! 五年前にみんなで集まって以来?」
「だな、もうそんなに経つのか。俺は働いてたけど、咲はあのころまだ大学生だったよな。いまは会社勤めしてんのか?」
 孝ちゃんは人好きのする笑顔を広げた。自動車修理工場で体を動かして働いているからか、体つきががっしりしている。こんがり日焼けもしていた。
「うん、会社勤めだよ。商社で営業してる」
「営業かー。おまえ、ハキハキしゃべるし明るいからぴったりだな。でもキツいだろ? あんま無理すんなよ」
「ありがと。キツいといえばキツいけど、どこに行っても同じかなって。労働はなんでもキツいよ。土日と給料日が待ち遠しい」
「わかる。金曜の夜は最高だよな。今夜は夜更かししようと思ってビールとつまみ買いにきたんだよ。咲は?」
「あ、わたしは付き添いで──」
 レジのほうを見たら、ちょうど旭課長が会計をすませてこちらに来るところだった。課長は孝ちゃんに会釈をする。
 孝ちゃんは、突然現れたイケメンにびっくりしたようだった。家は近いはずなんだけど、顔見知りではないらしい。
 孝ちゃんは旭課長に笑い掛けた。
「どうも、こんばんは。咲、こちらのイケメンさんはお知り合い?」
「うん。会社の上司で、旭諒太郎さん。課長、こちらはこの前話した、このあたりに住んでる友人の杉田孝一さんです」
「ああ、同じ団地に住んでいたっていう」
 課長は頷いて、改めて孝ちゃんに向き直った。

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