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【7話】高良さんに逆らえません!~過保護な俺様社長は甘すぎて危険。~

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 あれは、高良が椿と別れて少し経った時ぐらいのことだったと思う。
 あの日、あるプロジェクトが終わって、そのチームに参加していたメンバーで打ち上げがあった。そこに高良も明莉も出席していた。一次会が終わり、二次会は各自好きなようにという流れで、高良は後半に顔を出した、ACTの取締役を務めている仙崎せんざきと、その時に動画制作のチームリーダーをしていた佐藤さとうと移動して飲み直すという話をしていた。明莉は一次会で帰ろうとしたが、その際になぜかお前も来いと言われて、結果的に四人で違う店に移動したのだ。
 あの日、高良は珍しく酔っていた。高良はお酒に強い。明莉はそれまでにも何度か一緒にお酒を飲んだことがあったが、酔っている姿は見たことがなかった。けれど、あの時は大きな案件が無事に終わったことで高良も気が緩んでいたのかもしれない。今思えばその日は杯を重ねるペースが明らかに早かった。
 やがて佐藤が、終電が早いからと言って途中で帰った。しばらくすると仙崎に電話がかかってきて席を外した。その時に期せずして二人になったのだ。
 どうしてそんな話題になったのか、明莉もそんなにお酒は弱い方ではないが、飲み始めから時間がかなり経過していたこともあって、酔いが進んでいたせいかよく覚えていない。気付いたらなぜか、話は高良の恋愛面のことになっていた。
 高良は別に秘密主義者ではない。だからそれまでにも飲みや食事の場で世間話程度に自分のプライベートなことを話すことはあった。けれど、恋愛面で突っ込んだ話をしたのは、後にも先にもこの時だけだったと思う。
 明莉はその時に、高良が少し前に椿と別れたことを聞いた。自分が対象外なことは知っていたし、下手なことをして高良との関係が気まずくなり、働きにくくなったり職場に迷惑をかけたりするのは嫌だったので、明莉は端から高良とどうにかなるなんてことは考えていなかった。それなのに一丁前に、高良に女の影がちらついたりするとショックを受けるのだから、恋愛感情というのは実にやっかいだ。
 誰かと付き合っていると知った時は落ち込んで、苦しくなったり悲しくなったりしてしまう。そして、別れたと聞いたら不謹慎にも喜んでしまうのだ。
 椿と別れたからって自分にチャンスが回ってくるなんてことはないのに、アルコールで自制心が薄まっているせいもあって明莉はその時、浮かれたのだ。
 その時の自分を見たら馬鹿みたいに緩んだ顔をしていたのだろうと思う。気分が高揚し、楽しくなって勢いのまま更にぐいぐいとお酒を飲んで、所謂「怖いものなし状態」まで達し、言動にブレーキがきかなくなった。
 本来だったら普段の明莉の態度との落差に、ドン引かれること間違いなしの言動だったろうが、高良も酔っていたおかげで、幸か不幸か、あまり気にされなかった。それどころか、その場では、普通に受け入れられた。
『高良さんってあんまり長く続かないんですか? 付き合っても』
 調子に乗って、酒の勢いを借りて普段聞きたくても聞けないことを言葉にした。それに対して、高良は特に嫌な顔はしなかった。
『大体、全然かまってくれないって言われて振られる。美香も長く続いたと思ったけど、やっぱ一年もたなかったな』
 向いてねえんだな、と面倒くさそうに言った高良から椿に対しての未練は特に感じられず、そこで妙に安堵したのを覚えている。
『どんな女性がタイプですか?』
『んー……、何て言うか自分がはっきりあるタイプっつーか、けっこう我の強めな女の方が話してても面白いしいいなと思ってたんだけど、最近気付いたんだよな。俺も割と曲げられないところあるから、そういう女ってもしかして自分と性格的に合わないんじゃないかなって』
『え、今更ですか?』
『うるせえな。お前なんか今日、突っ込み強くない?』
『そんなことないですよ。で、それで? じゃあ最近タイプが変わったってことですか?』
『あーまあ……そうなるかもな。今度付き合うんだったら、人に合わせられるタイプの子がいいかな。できればこっちの意も汲んでくれるような……そうだな』
 そこで妙に真剣な目で高良は明莉を見つめたのだ。
『お前みたいな』
 なんて罪な言葉だったんだろうと今は思う。この言葉に、明莉の心は天にも登る勢いで舞い上がったのだ。
 そして、つい、言ってしまった。馬鹿みたいに上擦った声で。決して言うつもりじゃなかった言葉を。
『じゃあ……付き合います、か?』
 酔っていなかったら絶対に言っていなかった。酔いの回った頭でも、さすがに自分がとんでもないことを言ったことを自覚したのか、次の瞬間、すうっと酔いが醒めて明莉は我に返ったようにはっとなった。ものの一秒もしない内に、強烈な後悔が明莉を襲った。
『ああ……ん?』
 あんまりよく聞いていないような素振りで軽く頷いた高良は、何らかの違和感を覚えたのか、怪訝そうに眉を顰めた。それから考えを咀嚼するように少し間を置くと、『お前と?』とまるで自分に確認するかのように呟いた。
 そこから高良が次の言葉を発するまで、明莉にはその数秒がものすごく長く感じた。心臓がまるで耳のすぐ傍で拍動しているかのように、バクバクと大きな音で鳴り響いていたのを覚えている。今すぐに否定した方がいいのか、それとも、これ以上迂闊なことを言わない方がいいのか、動揺してよく分からなくなって、結局はじっとりと汗ばむ手の平をぎゅっと握り込んでいた。
『いや、それはないだろ』
 口調がぞんざいなのは、酔いの影響もあるだろう。しかし、高良ははっきりとそう言った。その瞬間、明莉の恋は、ひっそりと終わった。

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