• HOME
  • 毎日無料
  • 【16話】高良さんに逆らえません!~過保護な俺様社長は甘すぎて危険。~

【16話】高良さんに逆らえません!~過保護な俺様社長は甘すぎて危険。~

作品詳細

 その心は、と考えれば、恋愛感情からのものではないことははっきりしている。なにせ明莉は振られているのだ。となると、考えられることは一つ。
 さっと顔が赤みを帯びたのが分かった。恥ずかしさとやるせなさと、モヤモヤしたものがミックスになった混乱した感情。急に自分が馬鹿みたいに思えた。ひどくみじめな気分になって、何だか泣いてしまいそうだった。
 黒くて醜い感情がとぐろを巻いて腹の奥から込み上げてくる。それに押されたように、気付けば、「あのっ」と明莉は大きな声を出していた。
「そ、それはちょっと、お節介が過ぎるのではないでしょうか。確かに、高良さんから見たら、私なんて世間知らずで男性のことなんか何も分かってないって思うのかもしれないけど。だから危なっかしくて、上司の立場としては、つい、心配になっちゃうのかもしれないですけどっ。私だってもう二十八歳です。合コンに行って変な男に捕まっても、お持ち帰りされちゃっても、自業自得だし、自己責任で勝手に反省します。それで誰に迷惑かける訳でもないし、仕事に支障が出る訳でもないし、別にいいじゃないですか。そこまで……そこまでこんな風に口出されたくないです!」
 話している内に今まで抑えてきた感情が漏れ出てきてしまったのが、段々とヒートアップしてしまった明莉は、そこまで言い切るとはあはあと肩で息をした。
 今までの散々切ない気持ちに駆られた片思いの記憶や、何とか吹っ切ろうと頑張ったこと、考えに考えて処女を捨てようと思い立った決意、協力してくれた佐和田、そして明莉に優しくしてくれた遠野。
 取り留めなく浮かんできて、頭の中がぐちゃぐちゃになった。今までの努力を踏みにじられたような、すべてを否定されたような、そんな気持ちになって、八つ当たりじみているとは思ったが、悲しくて、とても腹が立った。
 大体、すべては高良を忘れるための行動なのだ。勝手に片思いしているのはこちらだし、心配してくれる気持ちは有難いと思う。けれど、ただの上司と部下、社長と一従業員に過ぎない関係性を越えて、ここまで介入してくるのはルール違反だ。明莉はそれを越えないように必死に守っているのに、そんなのは、親切心からの行動ゆえに、逆にとても残酷なような気がした。
 鼻の奥がツンとして、ぎゅっと唇を噛みしめる。それでも堪えきれず、涙が滲んだ。呆気に取られたような高良の顔が視界の中でぼやけた。
 困ったような顔になった高良が軽く首を傾けて、小さく息を吐きながら、あのさ、と言った。
「誤解してると思う。俺は別に、上司の立場からお前を迎えに行った訳じゃない」
「……え?」
「ただの従業員にそんなことするか。仕事をちゃんとやってれば合コンでも何でも勝手にしたらいいよ。仕事とプライベートは分けて考えてる。いちいち迎えに行ったりなんかしない。つまりお前の上司である時間はとっくに終了してて今はプライベート」
 そこで高良は、困惑しているかのように眉を寄せた。
「でも俺もお前を誤解してたかもな。今のお前の話聞くとさ、本気で持ち帰られようとしてたってこと? さっき俺はお前の邪魔した訳?」
 ずばり聞かれてぎくりと明莉の身体が強張った。一番突っ込んでほしくないことだった。涙が引っ込んで、高ぶっていた感情が乱高下するように下がる。先ほどの勢いはどこへ行ったのか、明莉は明らかな動揺を顔に滲ませた。
(ど、ど、どうしよう。え、嘘。何て言えばいいの?)
 本当のことなんて、言える訳ない。
 沈黙が答えだと思ったのか、さっと高良の顔色が変わった。
「……本気で? あのさ、持ち帰られるってどういうことか分かってるのか? ああやって合コンを男と二人で抜けたら、場合によってはもうちょい飲まされて、いい感じに出来上がったところで最終的にホテルとかに連れて行かれてやられんだぞ」
 高良は明莉が「お持ち帰り」の意味するところを知らないとでも思ったのか、言い聞かせるように説明をし出した。明莉はややむっとして高良を見上げる。さすがにそれはないだろう。どれだけ世間知らずだと思っているのか。
「分かってますよ、そのぐらい。高良さん私のこといくつだと思ってるんですか」
「じゃあ、全部分かってての行動だったって訳?」
 いやちょっと待って、とショックを受けた顔で高良が呟いたから、明莉は慌てた。今度は違った方へ誤解されている。まあ確かに、お持ち帰りを肯定したら、一晩限りの関係もOKで遊んでいると思われても仕方ない。別に本人さえよければどんな遊び方をしてもいいとは思うが、明莉はそうではない。これには、理由があるのだ。
 大声で否定したい衝動を堪えて、明莉は頑張って冷静さを心掛けながら口を開いた。
「違いますよ! そんな訳ないでしょう」
「じゃあ、何なんだよ。あんな男と仲良さそうに手つないでどこか行こうとしやがって。俺が止めなかったら普通にホテルコースだろ。やられたじゃん。お前それでよかった?」
「良くない……あ、違う。本当は良くって……」
 もごもごと明莉は歯切れ悪く口の中で呟いた。肯定も否定もできない。どうしようどうしようと頭の中がぐるぐるとする。追い詰められている気分になって、無意識に横に流した髪を縋るように触っていた。背中をつうっと汗が流れる。
「ええっと……だから、その……ああもうっ、これには事情があるんです!」
「は? どんな事情だよ」
 はっと笑った高良の頬が歪む。元々切れ込んでいる目尻が更に吊り上がって苛々しているのが見て取れる。けれど明莉も同じぐらい、このにっちもさっちもいかない状況に苛々していた。
「あーーーもうっ、処女を捨てたかったの!」
「……は?」
 とうとう耐え切れなくなった明莉が叫ぶように発すると、うざったそうに前髪を払っていた、高良の動きがピタリと止まった。
 しんと辺りが水を打ったように静まり返る。
「……え、お前処女なの?」
 しばらく後、おそるおそる確認、という感じで高良が口を開いた。驚いたようにこちらを見ている。明莉は、はーーっと大きくため息を吐いた。
「ええそうです、そうです。処女なんです。まずいですよね。二十八歳で処女なんて。分かってるんです。だから処女を捨てる相手見つけに合コンに行ったんです!」
 これで満足かとでもいうように強く高良を見据えながら、やけっぱちな口調で明莉は続けた。これを言ってしまったんだから、もう、終わりだ。一瞬にして何もかもがどうでもよくなり、すべてをぶちまけてしまいたくなる衝動に襲われていた。

作品詳細

関連記事一覧

テキストのコピーはできません。