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【13話】高良さんに逆らえません!~過保護な俺様社長は甘すぎて危険。~

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 そのまま仏頂面で腕を組んだ高良は少し考え込んでから、ふっと気を取り直したようにまた軽く息を吐いて、独り言でも言うような口調で口を開いた。
「……いやなんて言うかさ、ここまで上下関係ががっちりしちゃうと、俺が手を出したら、どうしても立場を利用して、みたいな感じになりかねないだろ。俺はいくらでも付け込める訳だし。あいつは拒みづらいし。だから」
「なるほどね。お前の言いたいことは分からなくもない。自重している間に自分に暗示かけてたんだな。ま、実際には反対に見えたけど」
「どういうことだよ?」
「お前が七海さんを拒んでいる」
 その言葉にはっとした顔になった高良はそのまま黙り込んだ。
「彼女もいつまでも二十代じゃないし、そろそろいい年だろ。普通に考えたら彼氏もほしいし、合コンにもそりゃ行くし。他に目を向ける可能性は考えなかった訳? どっちにしろ、この先はこれまで通りとはいかないだろうな」
「……ああ」
 不機嫌そうに眉根を寄せたまま、短く答えた高良はもう一本煙草を取り出そうとして、空だということに気付いてちっと舌打ちをした。ぐしゃっとその空箱を捻って潰す。そして気を取り直すように大きく息を吐いた。
「どこ行くんだよ」
 背を向けかけた高良に仙崎が声を掛けた。
「電話してくる」
 ポケットから取り出したスマートフォンを耳に当てながら、高良は首だけ傾けて仙崎に視線を寄越した。しかしわずかの間の後で、聞こえてきたアナウンスにまたちっと舌打ちをした。
「くそ。電源切ってる」
「臼井もう帰りそうになってたけど、捕まえるなら急いだ方がいいな」
 間髪を入れず、仙崎が言った。
「臼井か」
 そう呟いた瞬間には、もう高良の足は動き出していた。急いで廊下への扉を開ける。
 そのままの勢いでオフィスの扉も開けた高良は、周囲に気を配る余裕もなく急ぎ足でフロアを横切り、自分の席の近くまで戻った。
 目当ての人物はちょうど帰り支度をしているところだった。高良はほっとしつつ、急いで呼び止める。
「臼井!」
「あ、社長。もう帰りますね。お先でーす」
「今日の合コン、佐和田のセッティングだったって言ってたな?」
 言葉を遮るように口を開く。臼井はその勢いに一瞬ぽかんとなった。何を言われたのか分からないという顔で何度か瞬きをすると、突然あっと声を上げた。
「七海さんの合コンのことですか? そうだと思いますよ。佐和田っち、イケメンの知り合い多いみたいですから」
「どこで飲んでるか店分かるか?」
「えっ、それは……」
 そこで一瞬言葉を失った臼井だったが、「あ!」と何かを思いついたように言った。
「分かるのか?」
「佐和田っちの鍵アカ知ってるんですけど、そこだったら何か投稿してるかも」
 臼井は既に机の上に置いてあったカラフルなバッグからスマホを取り出すと、目にも止まらぬ速さでタップを繰り返してSNSアプリを起動した。画面を凝視しながらスクロールして何かを探している。
「あった! お店の名前書いてます。ほら、ここに!」
 興奮した声とともに差し出された画面に高良はぐっと顔を近付けた。

 *

 その頃明莉は、やや飲みすぎとも言えなくもないペースでグラスを傾けて一生懸命相槌を打っていた。
 合コンにぴったりのおしゃれな雰囲気漂うダイニングバーは盛況だった。吹き抜けの天井にはシーリングファンが回っていて、間接照明を中心とした柔らかなライティングに、インテリアは濃茶と白でまとめあげられている。料理はイタリアンが中心で出されるものはどれも美味しかった。
 その店内のテーブルに座る明莉たちは、既に二時間ほど食べて飲んで喋っている。合コンは三対三、合計六人が参加していた。男性陣は三人とも違うタイプのイケメンで佐和田の招集能力の高さに正直、脱帽だった。女性の方は、佐和田と明莉、あともう一人は佐和田が友人を呼んでくれていた。ふんわりした感じの笑顔が可愛い、癒し系のタイプで男性にもモテそうだが、今日は盛り上げ役に回ってくれるとのことだった。
 最初は全員で話して場を温め、いい感じに盛り上がってきたところで席替えをして、何となく一対一になって会話を楽しむ、というのがスタンダードな合コンの流れらしい。既にマンツーマンスタイルに入っている中で、明莉の隣には、緩くパーマをかけた、甘い顔立ちの男性が座っていた。
 それぞれが仕事帰りだったが、外資系企業に勤めているとのことだったので、そこまできっちりしていなくても大丈夫なのだろう。遠野とおのと名乗った彼は、グレーの細身のパンツにシャツをあわせて、ノーネクタイだった。シンプルな恰好なのに、スタイルがいいのかとてもおしゃれに見える。加えて、どう見てもイケメンとあれば、当然ながら間違いなくモテるだろう。
 普段から高良を見ているのでイケメンは見慣れている明莉だが、ここまでのイケメンが来ると思っていなかったので正直かなり腰が引けてしまっていた。一晩の相手を頼むのも恐れ多いと色々と尻込みしてしまう。若干挙動不審になってしまった感のある明莉に、安心感を与える柔らかい笑顔と軽妙なトークでリラックスさせてくれたのがこの遠野だったのだ。
「明莉ちゃんって黒目大きいよね。それ、コンタクト?」
 瞳を覗き込んだ遠野の顔が思いがけなく近付いて、免疫のない明莉はそれだけでどきっとしてしまう。
「あ、いえ、コンタクトじゃなくて……裸眼なので生まれつき? あ、えーと、なんだろ、天然のものです」
 動揺した明莉は何と答えているのか、自分でもよく分からないまま、とりあえず言葉を並べた。
「へえ、天然ものなんだ」
 不自然に口元をひくつかせながら答えた遠野は、すぐその後で堪えきれず、というように吹き出した。
「……え、私何か変なこと言いました?」
 困ったように眉を下げた明莉に、ごめんごめんとまだ笑いながら遠野が返す。
「変なこと言ってないよ。俺が勝手にツボっただけ。……明莉ちゃんって面白いよね」
「……そうですか? そんなこと言われたことないですけど」
「あんまり合コンとかこないんだっけ? 俺今日ラッキーだったな。レアなのに、出会えた」
 ふっと笑うと目尻が下がって、それがとても優しい印象を与えた。イケメンの甘い笑みに明莉の鼓動はにわかに速くなる。
(ちょっと佐和ちゃん、オーダー通りすぎない?)

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