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【12話】高良さんに逆らえません!~過保護な俺様社長は甘すぎて危険。~

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「あー……疲れた」
 首元に手を当てて、筋を伸ばすように首を左側に傾けながら自分の席まで歩いてきた高良は、小脇に抱えていた資料やタブレットをデスクに置いて、ふうっと息を吐いた。そして、椅子に座る前に何気なく周囲に視線を巡らして、あれ、と何かに気付いた顔をした。
「おい、七海は? どこ行った?」
 明莉の前の席に座る、木村きむらに声を掛ける。腕時計に視線を落として確認すると、定時を過ぎてはいるがまだそこまで遅くはない時間だった。明莉は定時であがることはあまりない。いつもだったらもう少し働いているはずだ。トイレでも行っているのかなと思いながら、腰を下ろそうとしたところで、木村が口を開いた。
「もうあがりましたよ」
「あそう……早いな。珍しい」
 別にやることをやっていれば、定時にあがって帰っていたとしても高良としては全然構わない。ただ、いつもの明莉にすれば珍しい行動だ。そのことに何となく違和感を覚えた。
 そこで、木村の隣に座る臼井が、妙にニヤニヤしてこちらを見ているのが目に入った。
「社長。今日七海さん合コンらしいですよ」
「へぇ、そう……は?」
 大した話題ではないと思って、聞き流すぐらいの軽い感じで返事をしかけた高良は、聞こえてきたその単語に耳を疑ったように、ぴたりと動きを止めた。
「合コン……?」
 意味を確かめるように呟く。
「しかもイケメンと。佐和田っちがセッティングしたみたいだったから相手のレベル高いと思うなあ。いいな、私も連れて行ってもらえばよかった」
 後悔していたのか、ぼやくように話した臼井ははーあ、と未練たっぷりの息を吐いた。
 しかしそちらの方へ顔を向けて、動きを止めたまま複雑な面持ちで何事かを忙しなく考えている様子の高良の目には、明らかに臼井の姿は入っていない。傍から見ても、何らかのショックを受けているのが駄々洩れになってしまっていた。
 その体のまま、しばしフリーズしていた高良は、今度は突然、はっと息を吐いた。
「七海が合コン? んなのにあいつが行くかよ。お前の勘違いなんじゃないの?」
 虚勢を張るかのように無理矢理な笑みを浮かべた高良に、臼井がむっとした顔で返す。
「本人たちから聞いたんだから、勘違いなんてことはないですよ。ね、木村さんも聞きましたよね? 確かにイケメンと合コンって言ってましたよね?」
 話を振られた木村がぎょっとしたような顔をした。明らかに俺に振ってくれるなという顔をして、これ以上はやめろと臼井に分かりやすい目配せを送っているのに、当の臼井は全く気付いていない。
「男ウケを狙ったリップ塗っていくとか、あれは明らかにイケメンおとす気満々でしたね。あっそう言えば今日、七海さんの恰好がいつもと違うなと思ってたんですよ。社長、見ませんでした? すごい可愛い恰好してましたよ。なんだ、あれ合コンのためだったんですね。私てっきり社長とデートなんだとばっかり思ってて……あ、ここだけの話、実は私、社長と七海さん付き合ってると思ってたんですよ。なーんだ付き合ってなかったんですね」
 も~言ってくださいよお、と放っておけばいつまでも喋りそうな臼井の口を、さすがに聞いていられなくなったのか、木村が黙って手を伸ばして塞いだ。
「むっ……うう」
 口を塞がれた臼井が何をするんだと言わんばかりに木村に目で訴える。それを睨み返して黙らせようとする木村に、後ろから明らかに苛々とした声が掛かった。
「木村。それでお前もその場にいたのか。七海が何て言ってたのか教えろよ」
 ぎくりと木村の肩が強張る。
「……はい。確かにイケメンと合コンと言ってました」
 木村は気まずそうな顔でしぶしぶそう言った。

 フロアから廊下に出て、エレベーターとは逆の奥まった方へ行くと外階段へ出る扉がある。そこを開けると、外階段にしては珍しく、広々とした踊り場があった。その余っているスペースを利用して、灰皿が置かれた一角が一応の喫煙場所となっている。高良は持ってきた煙草をポケットから取り出すと一本咥えてライターで火を点けた。
 深く吸い込んでゆっくりと吐き出す。煙が棚引きながら闇の中に消えていった。
 どうして自分がこんなにも落ち着かない気持ちに陥っているのか、高良には分からなかった。
 煙草を口に咥えたまま、手すりに腕をのせてもたれかかり、闇に沈むビル群を眺める。街灯と窓から漏れる灯り、ネオンが街を照らしている。それをぼんやりと目に映しながら忙しなく煙を吸っては吐くと、すぐに煙草は短くなった。
「だいぶ行き詰まってるね」
「ああ?」
 見れば、仙崎が扉から出てきたところだった。力任せに灰皿に煙草を押し付けている高良を見て、ふっと笑った。
「行き詰まってなんかねえよ」
「嘘つくなよ。お前が煙草を吸うのはにっちもさっちもいかなくなって頭を整理したい時だけだろ」
 ずばり言われて、面白くなさそうに高良は黙った。付き合いが長いので行動は知られている。隠すだけ無駄だった。
 仙崎は同じ広告代理店で働いていた仲だった。同期でウマが合い、やりたい仕事の方向性も同じ。お互い独立心があったので、一緒に会社を辞めて起業したのだ。元々営業畑だったこともあって、ACTでも営業面はほとんど仙崎が仕切っている。
「んで、何をそんなに迷ってんの? 七海さん、他の男に取られたくなかったら、さっさと迎えに行けば?」
 仙崎は柔和そうな見た目に反して、身内には物言いがけっこう辛辣だ。オブラートに一切包んでない言葉に眉を顰める。
 どうやら先ほどの臼井達とのやり取りを聞いていたらしい。高良はため息をついて、頭をがしがしと掻いた。
「俺、七海のこと、そういう風に見れないと思ってたはずなんだよ。だから自分でもこんなに引っ掛かるなんて驚いて。どうしていいのか分からなくなってる」
「ああ、本気でそう思ってたんだ。俺も前から気になってたんだけど、お前のその七海さんに対しての保護者ポジションなんなの? 言ってもそこまで年離れてる訳じゃないでしょ」
「いやだって、あいつが入社したばかりですげえ初々しい頃から知ってんだよ? 俺の下につかせた時だって何もできなくてさ。色々教えて……」
「つまり俺が育てた的な、親心みたいな気持ちが芽生えてしまったと? お前のところにきた時はもう立派に成人女性だったのに?」
「あーそうかもな」
 高良は不貞腐れた顔で投げやりに答えた。眉を顰めてイライラしたように息を吐く。

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