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【11話】高良さんに逆らえません!~過保護な俺様社長は甘すぎて危険。~

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 そんな風にソワソワしながらも、明莉は順調に仕事を終わらせ、定時きっかりにパソコンの電源を落とした。ちらりと高良の席を見る。普段からあまり席にいない高良だが、今日はいつにも増して姿を見掛けなかった。そうは言ってもスケジュールは把握しているし、何かあればメッセージで確認がとれるので仕事的には支障はない。やはり今日は何となく顔を合わせたくなかったので、明莉的にこれは都合がよかった。
 軽く息を吐いてから、デスクの下からバッグを取ろうと身を屈めようとした時、ぽんと後ろから肩を叩かれた。
「七海さん、準備できました? メイク直しますよね。私、唇ぷっくりするリップ持ってるんで貸しますよ。これ塗るとめちゃ男ウケよくなるんで」
 にこにこと笑う佐和田が後ろにいた。佐和田も気合が入っているのか少し声が大きかった。周りに聞こえちゃうかも、と明莉が心配になった途端、明莉の斜め前のデスクの臼井うすいが顔を上げた。
「え? 七海さん達今日何かあるんですか?」
 その顔は明らかにワクワクしていて、隠しきれない好奇心が滲み出ている。臼井は確か佐和田と同い年。佐和田とはテイストは違うが、快活な印象で思ったことも割とはっきり言うタイプだ。下手に返すとけっこうぐいぐいきそうだなと思って、明莉が返事に迷っている内に佐和田が隣で口を開いた。
「うん。イケメンと合コン」
「えっ!? 七海さんが合コン!?」
 あっさりとばらしてしまった佐和田に言わないでほしかったという視線を送りつつ、臼井の驚きぶりがあまりにオーバーで明莉はつい眉を顰める。
「なんでそんなに驚くの。私が合コン行くのそんなにおかしい?」
「えっ……だってしゃちょ……あっいやいや別に何でもないです。そう言う訳じゃないんですけど、何となくキャラ的に、えっとそういうの嫌いそうかなあって」
「別に嫌いじゃないですよね? 今日だってやる気十分ですもんね?」
「え? ああ……うん、まあ」
 確かにやる気はすごくある。当たっているだけに訂正もせずに明莉が曖昧に頷いている間に、佐和田が、「じゃ、私たちやることあるから、お疲れ」と臼井に言ってさっさと歩き出していた。慌ててバッグを持って明莉も臼井に声を掛けてからその後を追う。後には、ぽかんとした顔の臼井が取り残されていた。
「すみません、合コンのこと言われたくなかったですか?」
「うーん、いや、別にいいんだけど……」
 すぐに追いついた佐和田と肩を並べて話しながらフロアの出入り口の扉から外に出る。トイレは廊下の突き当たりにあるので、どちらからともなくそちらに足を向けていた。
「いや臼井に言っといたらもしかしたら……もしかするかもと思いまして」
「もしかするかも?」
 佐和田の要領を得ない言葉に首を傾けたところで、後ろから女性の声がしたような気がして、明莉は反射的に振り返った。
「あ、やっぱり佐和田さん」
 エレベーターの方から来た背の高い女性が、カツカツとヒールの音を響かせて歩いてくるところだった。
「……椿さん?」
 近付いて来る姿を認めて、佐和田が驚いた声を出す。明莉もその姿をまじまじと見つめた。
 華やかなデザインのカシュクールワンピースを見事なまでに着こなす、すらりとした体つき。背中の中ほどまであるロングヘアはツヤツヤとキューティクルが光り輝き、とてもきれいだ。そして、ナチュラルメイクでも際立っている彫りの深い、整った顔立ち。道を歩けばその存在感は抜群だろう。さすがにモデルだけあってそこだけ空気が違って見えるようなオーラがあった。一度見たら忘れない。間違いなく高良の元カノの椿だ。
「もうあがるところ? 近くまで寄ったから、企画に合いそうなモデルのプロフィール持ってきたの。ちょうどいい子を思い付いたから」
「そうだったんですか。それはわざわざありがとうございます。担当の大野おおのを呼んできますね」
「あ、それは大丈夫。さっき電話したらすぐ出てくるって」
 そう言ってにこりと美しい笑みを浮かべながら、肩にかかった髪をさらりと払った椿は、佐和田の隣にいる明莉にふと視線を向けて、あら、と声を出した。
「七海さん?」
 明莉の肩がわずかに揺れる。明莉は椿と面識があった。仕事相手としても、高良の彼女としても、何回か顔を合わせたことがあった。
「お久しぶりです」
 何の感情も出ないように細心の注意を払いながら丁寧にお辞儀をした。その努力の甲斐があったのか、椿は親し気に微笑んだ。
「本当に。あなたってまだ新のアシスタントなの? そうだ、新って今事務所にいるかしら?」
 明莉は控えめに笑いながら、「はい」とその言葉を肯定する。それから事務的に口を開いた。
「社長は今席を外しているかと思いますが。アポイントが必要でしたら連絡を」
「あ、だったらいいの。自分で連絡してみるから」
 明莉の言葉を遮るように続けると、にっこりと笑った。
「すみません。お待たせいたしました」
 その時、出入り口から大野が顔を出した。椿の注意がそちらに向いた隙を逃さず、佐和田が「では、私は失礼します」と辞去の挨拶を口にする。明莉もすかさずそれに続いた。
 そのまま、急ぐように立ち去り、椿から十分離れたところで、佐和田がぽつりと呟いた。
「なにあれ。社長のこと名前呼びしてあれわざとじゃないですか? なんか七海さんにマウントとってません?」
「佐和ちゃんも椿さんと面識あったんだね」
「最近、ちょっと必要に迫られて打ち合わせに何回か同席してるんですよ。あの案件、いつの間にか椿さんが担当みたいになってるんですよね。ここ数回なんて電話で済むこともいちいち椿さんが来て」
 何か不満があるのか、嫌そうな口調でそこまで言った佐和田は、明莉をぱっと見て急に口を噤んだ。
「やめましょう。今は合コンですよ。私、とっておきのメイクアイテム、いくつか持ってきたんでぜひ使ってください」
「そうなの? 助かる。ありがとう、佐和ちゃん」
「いえいえ。七海さんの幸せのためですから」
 佐和田の言葉に照れたような笑みを浮かべた明莉はトイレの扉を押した。

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