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【10話】高良さんに逆らえません!~過保護な俺様社長は甘すぎて危険。~

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 合コンは、そこで特に何かあったことはないが、大学の時に数合わせで誘われて何度か行ったことがあるからどんなものであるかは知っていた。所謂「お持ち帰り」があることも。
 真面目な男性だったら難しいかもしれないが、遊び慣れていて「お持ち帰り」を狙うような男性だったら、明莉の処女ももらってくれる可能性が高いのではないかと思った。それに、まるで経験がないのだから、そういったことに慣れていて上手くリードしてくれる男性の方が初めての相手としてはいいような気もした。
 しかし、こういった事情をすべて告白したら、佐和田はきっと明莉を止めるだろう。そんな風に処女を捨てるなと。友達や同僚がこんなことを言っていたら明莉だって止める自信がある。自分が少しおかしな方向へいっていることは自覚していた。
 けれど別に明莉は、本当に好きな人に捧げたいからと処女を大切にとっていた訳ではない。結果的にそういう機会に恵まれなかっただけだ。むしろ今は明莉にとって、「処女」であることはやっかいなお荷物で、手段は問わないから早々に何とかしたかった。
 しかし、さすがに佐和田に「処女」ということを告白するのは、気が引けた。だから明莉は誤魔化すように笑った。
「私、ここしばらく、合コンとかほんと全然行ってないの。それに、男の人と付き合った経験も……少ないし。ちょっと色々久しぶりだから、最初は慣れてる人がいいかなあと思って」
 見た目的にも男性経験が豊富そうには見えない明莉のルックスがよかったのかもしれない。佐和田が納得したような顔でなるほど、と言った。
「そういうことだったんですね。分かりました。ちょっとメンバー考えてみます。でもほどほどがいいですよね。あんまり遊び慣れてて、うっかり流されちゃっても困るし。そういう風に持っていくの上手い人もいるから」
「それは全然大丈夫!」
 むしろ、がんがん流してくれるタイプがいいかも。明莉はうっかりそう言いそうになるのを堪えて、リハビリにはそれぐらいがちょうどいいのかもと言い添えた。そして、面食らったような顔の佐和田を安心させるようににっこりと笑った。

 *

『来週の水曜に決まりました。予定どうですか?』
『ばっちり空いてます。ぜひ、お願いします。佐和ちゃんセッティングありがとう。楽しみにしてるね』
 あれから、佐和田は恐るべき早さで合コンをセッティングしてくれた。こんなメッセージをもらって返したのは、佐和田に頼んだ日のなんと三日後だ。明莉は慌てて週末に美容院の予約を入れた。佐和田曰く、明莉のオーダー通りのメンバーを揃えてくれたという。佐和田の言い振りから、自信の高さが窺えた。
 その佐和田の気遣いに報いるためにも、目的は必ず果たすという強い気持ちを持って臨まなくてはいけない。少しでも成功率をあげるため、男ウケを研究し、着ていく洋服も新しく買うことにした。この休日は、ショッピングやネイルサロンといった合コンに向けた準備のための予定でスケジュールは埋まっている。由衣子に連絡して、高良のことを吹っ切るために合コンに行くといったら、準備を手伝ってくれるというので、一緒に行くことになっていた。
 不思議と妙な高揚感が明莉を包んでいた。今までずっとうじうじと悩むばかりだった。諦めたいとそう思うばかりで具体的な行動は実際には何も起こしていなかった。でも、決心した。そして、小さいながらもその一歩を踏み出している。今までの自分から少しでも変われる予感がしていた。その期待が、明莉の心を高ぶらせていたのだ。
「あ、高良さん。領収書あったら出しておいてくださいね」
「あー……おう」
 ちょうどデスクに戻ってきた高良に声を掛ける。すると、返事をしながらタブレットを置いた高良が何かに気付いたようにふいっと視線を移してじっとこちらを見た。
「なんかお前、最近妙に張り切ってんな」
「え? そうですか?」
「何かいいことでもあった?」
 何気ない口調で発せられた言葉に頬がぴくりと動く。妙なところで鋭い。
(でも、大丈夫)
 もうむやみに心を動かされたりしない。明莉はにっこりと笑った。
「そうですね。あるにはあったかもしれないです」
「え、何だよ」
「高良さんには教えません」
「はあ? お前急になんだよ、どういう」
「プライベートなことなんで。あ、私、郵便出してこないと」
 ちょっと失礼します、と言って明莉は呆気に取られたような顔をしている高良に背を向けた。
「なんなんだよ……」
 その後で、複雑な顔をして高良がぼそっと呟いたのだが、その声は明莉には聞こえなかった。

 *

 そして、約束の水曜日はあっという間にきた。日曜に買った、ノースリーブシャツに膝下丈のタイトめなレーススカートをしっかりと身に着け、明莉は出社をしていた。適度な肌見せがベストと聞いて選んだコーディネートだ。
 髪は美容院で動きを出すためにレイヤーを入れてカットしてもらい、全体的に軽い印象になるように仕上げてもらっていた。いつもより明るめにカラーもした。更に華やかにするために、その髪を美容師さんに教えてもらった通りにゆるく巻いている。
 さすがに社内で剥き出しの腕を晒すのは何となく恥ずかしくて上にカーディガンを羽織った明莉は、ジェルネイルで固めた爪を忙しなく動かしながら、一生懸命キーボードを叩いていた。
(今日は絶対残業はできないし)
 定時ぴったりであがって化粧直しをしてから臨むつもりだ。そのための道具ももちろん持ってきている。朝からフルメイクしたとしても、合コンまでに崩れると思うし、普段そこまでメイクの濃くない明莉が朝からばっちりメイクをしていたら、要らぬ関心を引いてしまうかもしれない。誰も明莉のことなんかそこまで見てないかもしれないが、あまり目立ちたくなかった。
(何か今から緊張してきたかも)
 終業時間が近付くにつれて、明莉は妙に落ち着かない気分になっていた。何度も時間を気にしてしまう。佐和田は今日の明莉を見てすごく可愛いと褒めてくれたし、念入りに準備してきたのだから、とりあえずおかしいところはないと思う。
 だけどこんな、ろくに男と付き合ったこともない自分がいきなり合コンに行って、果たして本当に相手にしてもらえるのだろうか。一人ぽつんと浮いてしまったらどうしよう。処女をもらってもらう以前に、その前のハードルがクリアできるか、にわかに心配になってきていたのだ。

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