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【8話】イケニエ王子に甘く溺愛されて、呪いの魔女は戸惑い中!

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「おそらくですが……粉の挽きが足りなかったんじゃないですか? あと、寝かせの時間が足りなかった可能性もありますね。それから、ほんの少し脂を足すのがコツですよ」
「パンに脂!? うわあ、知らなかったわ……」
 小麦粉に水を足して練ったものを丸めて焼いたらパンになると思っていたが、美味しいパンを作るには、それ以上の行程が必要になるのだ。
「この卵料理も美味しい……蕩けるようだわ。中にチーズを入れたのね」
「はい。家の裏手で家畜鳥を飼っているのは驚きましたね」
「鳥は便利なのよ。毎日卵を産んでくれるし、肉にもなるし、骨や血液は秘術に使うわ。本当は他の家畜も飼いたいけれど、さすがに場所もないから諦めているの」
「じゃあ、定期的に街で買い足ししているんですか?」
「そうよ。もちろん変装するけれどね」
 まあ、変装といっても、大したことはしない。地味な革のワンピースと家畜毛のコートを着込むだけですっかり街の娘だ。長すぎる黒髪はコートの中に隠すので問題ない。
「ふぅん、伝説の魔女の生活って面白いですね。とても興味深いです」
 シチューを食べながら、レオニートが微笑む。
「つまらないとは言わないけれど、特に代わり映えのない毎日よ。ところで、あなたのことだけど、どうして今年の生け贄になっていたの? しかもあなた、瀕死だったわ」
 ぐっとパンを掴んで、リリィは前のめりになる。
「レオニートの外傷はひどいものだったけれど、致命傷ではなかった。けれどあなたは、昏睡薬を飲まされていたわ。私が解毒しなければ目覚めることもなく、出血多量で死んでいた」
 一体、ローゼン王国で何が起きているのだ。
 この国はずっと平和であり続けなければならない。そのために呪われた魔女がいる。
 レオニートは感情の読めない瞳をゆっくり和ませた。
「私は王城の庭で、背後から襲われました。もちろん応戦しましたが、何せ相手は六人がかりでしたからね。最後には後頭部を思い切り殴られて、あとは覚えていません」
「なるほど。昏睡薬は、いつ飲んだの?」
「襲われている最中に助けてもらえたのですが、その人に、傷の治りを早める薬だと言われたんですよ」
 食事を終えたレオニートが、ふっと遠い目をする。
 彼を襲った六人組は何が目的だったのか。それとも、レオニートを襲うよう依頼した人物が別にいるのか。ならば、薬を渡した者が主犯なのか。
 ローゼン王国、第一王子。その肩書きだけで考えると、いくらでも敵がいるだろう。政敵、他国の勢力、他は……他は思いつかないが。
 ただ、リリィはひとりだけ犯人に心当たりがあった。だが、やはり理由はわからない。
「まあ、私を襲った人達が考えることなんて、さっぱりわかりませんね」
「そうね。とりあえず、あなたは自分の身体を治すことに専念したらいいわ。全快したら記憶を消した上でローゼン王国に帰してあげるから、犯人捜しはその後したらいいでしょ」
「ええ、ありがとうございます。優しい魔女さん」
 にっこりとレオニートが極上の微笑みを浮かべ、思わず顔を赤らめたリリィはすぐにぶんぶんと首を横に振り、彼を睨む。
「私を優しいと言わないでって、昨日も言ったでしょ」
「では、思うだけなら問題ないですか?」
「それもダメ! 魔女は冷徹で残酷なの。魔女が優しく見えた時、それは腹の中で何か悪どいことを考えているか、それとも単なる気まぐれと決まっているのよ」
「ふぅん、じゃあ……今のリリィも、なにか悪いことを考えていると?」
 レオニートはふっと蒼玉の瞳を細めて、リリィの顎を摘まんだ。
「えっ……」
「教えてください。あなたは今、私に対して、何を企んでいるのですか?」
 なぜだろう。彼から目が離せない。美しい宝石のような瞳に吸い込まれてしまいそうで、やけに怖くなる。
 すると、だんだんと瞳が……いや、レオニートの顔が近づいてきた。
 リリィは目を丸くする。やがて彼の形のよい唇が、自分の唇に触れようとして――。
 べちっ。
 レオニートの顔が、リリィの両手にぶつかった。
「あ、あ、あなたこそ、何を企んでいるのっ! 私は単なる気まぐれよ。とっとと身体を治してここから出ていきなさいっ!」
 まったく、今のは何だったのだ。自分は魔女なのに、まるで魅了されたみたいに、身体が動かなくなってしまった。
「まさか、ローゼン王族も実は不思議な力が……? いやいや、そんな話は聞いたことがないし……」
 腕を組んでブツブツ呟くリリィを、レオニートは楽しそうに見つめていた。

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