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【7話】イケニエ王子に甘く溺愛されて、呪いの魔女は戸惑い中!

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 魔女は、不思議と女しか産まなかった。こればかりは謎に包まれているが、神から魔法という奇跡を受け取った時、そういう業も背負ったのかもしれない。
「なるほど。魔女が決して民衆の前に姿を現さないのは、その不死性に信憑性を持たせるためだったんですね」
「そうよ。小娘が魔女だと知れば、侮られるかもしれないからね」
 リリィは答えつつ、寝台の傍にある箪笥の引き出しを開けた。そして、チラ、とレオニートを見る。
 彼はテーブルに料理を並べて、首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「……着替えたいのよ」
「ああ、それは失礼しました。手伝いましょうか?」
「手伝う!? そんなのいらないわよっ! 後ろを向けと言っているの!」
 ビシッとレオニートを指さすと、彼はしょんぼりと俯いた。
「そうですか……仕方ありませんね」
「何が仕方ないのよ!」
「いえ。さすがにそこまで無防備ではないですよね」
 ボソッと呟き、レオニートは後ろを向いた。
「着替え終わるまで、違う部屋に待機しましょうか?」
「はあ? そこまでしなくていいわよ。ぱっぱって着替えるし」
 彼が背を向けていることを確認して、リリィは夜着を脱いで裸になり、裾の長いシュミーズを身に付けてから、普段着である黒いローブを着る。
 はあ、と小さなため息が聞こえた。
「なるほど。……肝心なところが無防備なんだな」
「なんか言った?」
「いえ、何も。着替えは終わりましたか?」
「終わったわよ」
 腰に手を当てて言うと、くるっとレオニートが振り向いた。
「では、朝食が冷める前に頂きましょう」
 にっこりと、笑顔で食事に誘う。勝手に食材を使われたことが内心面白くなかったが、料理に罪はない。
「そうね。頂くわ」
 ゆっくりと近づき、リリィはテーブルに並べられた料理を見る。
「……い、意外と、おいしそうじゃない」
 思わず強がってみたが、想像以上に美味しそうな料理だったので、驚いてしまう。
 木製の椅子に座ると、レオニートは向かい側の席についた。
「それはよかったです」
 爽やかな笑みを浮かべるレオニートを一瞥して、リリィは短く祈りの言葉を紡いだ。そして、匙を片手に食事を始める。
 まずは、柔らかな湯気を立てるシチューだ。
「そのシチューは、昨日テーブルに置きっぱなしになっていたものを流用しました。まだ温かかったですし、匂いからして、古いものではなかったようなので」
「ええ。だって生け贄を食べるために準備していたんだもの。……思い出したら腹が立ってきたわね」
 せっかく、熊だと思って喜んでいたのに。棺の中に人間を入れるとは何事だ。
 レオニートはパンを片手にくすくすと笑う。
「ああ、毎年の生け贄って、リリィの食事になっていたんですね」
「そうよ! 去年の猪なんて最高だったわ。腕のいい猟師ね~って、感心しながらお鍋にしたんだから。それにしてもこのシチュー、すごく美味しいんだけど!」
 先ほどから匙の手が止まらない。
 根菜は洗ったそのままを茹でていたはずなのだが、皮が綺麗に剥かれて、食べやすい大きさに切られていた。塩加減もリリィ好みだし、家畜の乳を使用したシチューはまろやかな味わいで、ほっこりと身体が温まる。
「これ、保存肉を使ったんでしょ? どうしてこんなに柔らかくなるの? それに、全然しょっぱくないわ」
「保存肉は、下茹ですると塩気が抜けて、肉も軟らかくなるんですよ」
「へ~! 知らなかった……」
 今まで、塩辛くて硬い保存肉を我慢して食べていたリリィは目を丸くする。
「でも、茹ですぎると旨味まで逃げてしまいますから、加減が大事なんです」
「なるほど。まるで薬の調合ね」
 調薬も、いろいろな加減が必要になる。しかし、完璧に薬を作ることができても、料理の腕はからっきしだったリリィは、二十五年生きてきて初めての美味しいシチューに感動が隠せない。ちなみに、リリィの母親も、料理はうまくなかった。
「このパンも、あなたが焼いたの?」
「ええ。食材庫で小麦を見つけましたから」
「私がパンを作ると、こんなにふわふわにならないけど、どういうこと!?」
 真ん中のカゴに置かれていたパンを二つにちぎると、ふわんと焼きたての湯気が立ちこめる。麦の甘い匂いにつられてかじると、まるで雲を食べるかのような柔らかさに衝撃を受けた。

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