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【5話】イケニエ王子に甘く溺愛されて、呪いの魔女は戸惑い中!

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「ひょえええっ!?」
「リリィフェオドラ。……それでは、リリィと呼ばせてください。伝説の魔女に会えて光栄です。まさかこんなに可憐な人だったなんて想像もしていなかったので、驚きですが」
「そっ、そんなことよりっ、手っ、手に今っ、唇!」
「これは失礼。リリィの手が、白い花のようにたおやかだったものですから。つい、その花の香りを知りたくなってしまったのです。お許しを」
 何を言っているのだこいつは。なんだか口にする言葉のひとつひとつがキラキラ輝いて、さらに花の蜜を煮詰めたように甘ったるい。リリィは思わず胸焼けを覚えて、過呼吸に陥ってしまった。
「おや、顔色がすぐれませんね。看病疲れが出てしまいましたか?」
「ち、ちが……っ。と、とーにーかーくー! そこっ、座れ!」
 リリィはビシッと寝台を指さした。このままでは、また調子を崩されてしまう。一体なんなのだ。今までの人生で初めて見る種類の人間だ。
「それに、いつの間にか人の名前を勝手に略してるし……」
 ようやく大人しく寝台に座ったレオニートを見て、リリィはげんなりと呟いた。
「リリィ、この響きは花のように可愛らしくて好きですよ」
 レオニートはニコニコしてリリィを見つめている。はあ、とため息をつき、リリィは彼に近づいた。
「とにかく、あなたはローゼン王室の人間なのね?」
「はい。第一王子になります」
「第一って……王太子ってこと?」
 レオニートが着ていた豪奢な服は、あちこちが破けている上、ドレスシャツは血液がべったりと付着していた。鋏を使って切り刻み、湯でふやかして、肌に張り付いたシャツを剥がすしかなかった。今のレオニートは、ジュストコールのキュロットだけ残した状態で、上半身は裸に包帯という出で立ちだ。
「いいえ、王太子は弟。第二王子ですね」
「そうなの? 普通は第一王子が継ぐと思うのだけど」
「私は現ローゼン国王の落胤です。王位継承権はありましたが、すでに放棄しています」
 なるほど。世俗はいろいろと複雑な事情があるようだ。
 リリィは慎重にレオニートの包帯をほどきながら、密かに思う。
「ふむ……傷はまだ完治していないけれど、ある程度は癒えたようね。ただ、薬の効果が残っているはずよ。頭の中に、霞のようなモヤがあるように感じない?」
「ええ。気を抜くとぼんやりしてしまいますね。眠い時の感覚に似ていますが、意識がはっきりしていて、不思議な感じがします」
「それが薬の効果よ。あなたは昏睡薬を飲んでしまっているの」
 困った顔をして、リリィは言う。
「昏睡薬、ですか」
 レオニートが、顎をさすって呟く。形のよい眉を、わずかにしかめた。
「身に覚えはない?」
「薬を飲んだ記憶はありますね。もちろん、違う薬のつもりで服用しましたが」
「じゃ、騙されたのね。まったく……」
 リリィはブツブツ呟いて、引き続きレオニートの身体を丹念に調べる。
「身体の傷は、まだ安静にしてなきゃだめね。もうしばらくの間、ここにいなさい」
「……このまま、ご厄介になってもかまわないのですか?」
 てっきり、歩けるようになったなら出ていけと、家から放り出されると思っていたのか。レオニートが驚いたように瞳を丸くさせる。
「そうしたいのはヤマヤマだけど、その傷で極寒の森に放り出すほど非情じゃないわ。ここは『くらやみの森』なのよ。移転の術で森の入り口まで送ってもいいけれど、あなたの傷では、術の負荷に耐えられない」
 つまり、森に放り出すにせよ、術で入り口に送るにせよ、レオニートの身体を完治させないといけないのだ。そうでないと、リリィの目覚めが悪い。
「せっかく私が手当してあげたのよ。のたれ死になんてされたら、困るわ」
「リリィは優しいですね」
「私を優しいなんて言うなら、すぐに放り出すっ!」
 ギロッとリリィはレオニートを睨んだ。自分は魔女だ。人間に恵みを与える時もあれば、天罰も下すこともある、人間を超越した存在。レオニートを助けたのは、言わば魔女の気まぐれというものだ。
「とにかく、完治したらちゃんと森の外に送ってあげる。その時には、ここで過ごした記憶はすべて消し去るから、安心して私に世話されてなさい」
「……記憶を、消してしまうのですか?」
 レオニートが怪訝な顔で訊ねた。リリィは「当然でしょ」と腕を組む。
「私は『くらやみの森』に棲む、呪われた魔女よ。魔女は秘匿されなければならない。魔女は人間の隣人であってはいけない。――魔女は、孤独でいなければならないのよ」
 ゆえに『生け贄』を捧げる祭りが存在するのだ。
 その恵みに感謝するために。
 魔女は人間の友人になってはいけないのだ。
 人間が約束を違えた時、天罰を振るうために。
 これは人間と神と魔女が交わした盟約。神代より続く、大切な約束。
 リリィは死ぬまで、魔女として孤独でいなければならない。

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