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【14話】イケニエ王子に甘く溺愛されて、呪いの魔女は戸惑い中!

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「そう。その系譜の始まりが初代リリィフェオドラ。創世記によると、神よりこの力を授かった唯一の人間と言われているわ。その血が脈々と私にまで繋がれているのよ」
「気の遠くなる話ですが、そんな魔女の恩恵を、ローゼン王国はずっと受けていたんですね。年一回の豊穣祭に生け贄を捧げることによって」
「ええ。昔は人間が捧げられていたらしいわ。でも、人間を貰ったところで処理に困る歴代の魔女が、遠回しに要望を伝え続けて、収穫物を捧げてもらえるようになったみたいね。それが、今年になってあなたが生け贄にされちゃうなんて」
 困ったものだわ、とリリィはため息をつきながら薬瓶を作っていく。
 そんな彼女をしばらく見つめていたレオニートは、ふと、大量の薬瓶に目を向けた。
「ところで、この薬はどうするんですか?」
「街に聖堂があるでしょう? あそこに保管されている聖櫃にこっそり入れておくの。そして、司教に薬を配るよう夢で指示するのよ」
「……あの『魔女の啓示』は、こんなからくりになっていたんですね」
 レオニートが納得したように頷く。
 世界を創世したとされる『神』を崇める聖堂は、魔女と繋がる唯一の橋渡し役だ。独立した権限を持っていて、国王でさえも聖堂を私物化することはできない。聖堂が守るものは国ではなく神の教えなのだ。
 歴代の司教の中には、魔女の秘薬を利用し、私腹を肥やそうとした愚か者もいたようだが、魔女の監視は節穴ではない。司教にふさわしくない人間は即刻魔女の天罰を受け、その座から降ろされた。
 魔女の声を聞くことができる司教は、畏怖と敬意をもって魔女の啓示通りに動ける者だけが選ばれるのだ。
「昔から疑問でした。『くらやみの森』に棲む呪われた魔女。それだけを聞くと人間の敵とも思えるのに、ローゼン王国は魔女を畏れながらも敬意を払っている。そして魔女は、時折気まぐれのように国民を救ってみせたりする。その関係性が、不思議だなと」
 凍てつく氷に閉ざされたローゼン地方。本来、人が住めるような場所ではない世界の果ては、魔女の恩恵を得た。
 国が作られ、王が治め、恒久的な平穏が許された小さな王国。
 しかし、長きにわたる歴史は安泰ばかりではなかった。作物の不作による飢えや、流行病。それはローゼン王国に限らず、どこの国でもある、自然現象による国難。
 それを救い続けてきたのは、『くらやみの森』に棲む呪われた魔女だった。
「リリィフェオドラは、神からこの土地を守るよう宿命づけられた存在だから、魔女はローゼン王国を守る義務があるのよ」
 そう言って、リリィは薬瓶の詰まった木箱を両手に持った。そして部屋の隅にある台座に置く。
「じゃ、これから薬を聖堂に移転して、司教の夢を操作するわ」
「ご苦労様です。じゃあ私は、お茶を用意しますね」
 レオニートは優しく微笑み、部屋を出ていく。彼を見送ってから、リリィは魔法を行使した。薬を転送した後、今夜見る予定の司教の夢を操作する。
『国民にふれを出し……流行病を治す薬を……配るがよい……。食後に一回服用するだけでよい……薬はきちんと飲みきるように……赤子でも飲めるよう甘く味付けしてやったから……安心して飲ませるがよい……』
 わざと低くしゃがれた声を出して、仰々しく夢の内容をブツブツ呟く。前に薬を処方した時に、司教が『子供が薬を飲んでくれない……』としょげていたのを水晶玉で確認していたので、今回は珍しい花蜜の結晶も入れて魔法を工夫したのだ。これで司教も安心して薬を配ることができるだろう。
「ふぅ」
 一仕事終えたリリィが安堵のため息をついていると、カチャリと部屋の扉が開いた。
「リリィ、お茶ができましたよ。こちらに来てはいかがですか?」
 顔を出したレオニートが誘う。
「ありがとう。いただくわ」
 向こうの部屋からふわんと甘い花の香りがする。その匂いに誘われるように、リリィは作業部屋から出た。
「薬草を摘んでいた時に、セテラの花を見つけたんです。これを茶葉に合わせると、とても香り高い香茶になるんですよ」
「セテラの花なんてあったの? この時期だと、珍しいわね」
 本来は春に咲く花なのだが、時にはそんなこともあるかもしれない。
 リリィはもちろんセテラという植物を知っている。ただ、リリィは秘薬知識に傾倒しているので、花が香り高いというのは知らなかった。セテラの薬効は茎にしかないのだ。

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