【8話】幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

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「なに?」
 それでもいつもどおり、ぶっきらぼうな返事をする隼人に気圧され気味になる。
 こんなに怖い雰囲気の人じゃなかったのにと、心の中で恨み節を言いながら、ふと急に気になってきた。
 今、ここで話すと会話は筒抜けだけれど、それでいいのかな? 歓迎会のことは、あくまでも裕太と勝手に考えたこと。
 みんなだって、隼人との会話で知るのは面白くないかもしれない。声をかけたはいいけれど、口を噤んだ私に隼人は怪訝な顔を向けた。
「どうした?」
「え?」
 “どうした?”という聞き方は、彼が子供の頃から変わっていない。私に元気がないと、よくそうやって声をかけて心配してくれていたっけ。
 いろいろな気持ちが交錯していると、隼人がスッと立ち上がった。
「話しにくいことなら、他に行こうか? たしか、応接室が空いているはすだ」
「はい……」
 やっぱり、隼人の優しさは残っている。彼のあとをついていきながら、恋する想いを吹っ切れることはまだできそうにないと、そう思ってしまった。
 オフィスの奥にある応接室に入ると、隼人は鍵をかけた。六畳ほどの小さな部屋で、二人掛けのソファが二脚と、リビングテーブル、そして内線用電話があるだけの窓もない殺風景な部屋だ。
 急に二人きりになって、とても緊張する。こんな近くに隼人を感じるのは、十年ぶりだから。
 ソファに座らず立ち尽くすだけの私は、まともに隼人を見ることができない。すると、隼人の静かな声がした。
「佳穂、久しぶりだな。びっくりしたよ。まさか、自分の部下にお前がいるなんて」
「隼人、私のことを気づいていたの?」
 胸のときめきを感じながら、隼人を見上げる。中学生の頃の隼人も私より背が高かったけれど、今はもっと身長差がある。
 たぶん、一八〇センチくらいはありそう。
「当たり前だろ? 女らしくなったじゃん。ご両親は元気なのか?」
「う、うん。隼人のご両親は?」
「元気だよ。ただ、二人はアメリカにいるけどな」
 こうやって話し始めたら、子供の頃と変わっていないと思える。不愛想に見えた隼人は、課長としての顔なのかもしれない。
「そうなんだ。じゃあ、隼人は一人暮らしなのね」
「ああ。佳穂は?」
「私も一緒。両親は、マンションに引っ越したの。駅近のほうが、利便性がいいからって」
 十年のブランクなんて感じさせないくらいに、自然に会話ができている。なんてことないやり取りだけれど、隼人との会話は心地よかった。
「そういうことだったのか」
「え? どういう意味?」
 彼の言葉がどこか引っかかり、尋ねてみたけれど隼人は首を横に振っただけだった。
「いや、なんでもない。それより、なにか俺に聞きたいことがあったんじゃないのか?」
 今度は私が問いかけられて、裕太と決めた歓迎会の話をした。隼人と話しができたことが嬉しくて、大事なことを確認しそびれそうになり反省する。
「そんなに、気を遣ってもらわなくていいよ」
「どうして? 昔は、みんなでワイワイすることは好きだったでしょ?」
 歓迎会を断る理由がどうしても分からなくて、疑問をぶつけた。
「俺は、あくまで一課の数字の立て直しで異動しただけだしな。成績が上がらなければ、俺もどこかに飛ばされる。いつ、いなくなるかも分からないからさ……」
「そんなに厳しいの? じゃあ、なおさら部下たちとの交流を図ろうよ。裕太と、隼人の好きそうなお店を決めるから。だから、なんでも言って」
 いろいろ気を遣っていたんだ──。そういう優しさは、全然変わっていない。
「だけど、一度断ってるのに、佳穂たちの好意だけを受け取るわけにもいかないだろ?」
 困ったような隼人に、私は半ば強引に話を進めた。どうしても、隼人の歓迎会をしたい。それは、彼との交流の機会を増やしたいからという私情があるけれど、それ以上に彼の支えになりたいと思ったから。
 隼人は厳しい条件で、ニューヨーク支社から異動したに違いない。一課の成績を上げるなんて、一事務員の私には力が及ばないことだけれど、なにかしらの貢献はしたかった。
 それにはやっぱり、部下とのコミュニケーションの機会を作ってあげたい。
 今になって思えば、栗田課長とはコミュニケーションが足りなかったように思う。
 それも原因で、一課を統率しきれなかったように感じるから。
「ねえ、隼人。部下とのコミュニケーションは大事よ。特に、営業さんたちとは。仕事以外の場所で、話をする機会を作ってみない? 誰かがなにか言えば、私が強引に誘ったって説明するから」
 そう言うと、隼人はフッと微笑んだ。それは、今まで見たことのない大人の男性としての笑み。
 屈託ない子供の頃の笑顔とは違っていて、一瞬にして胸はときめいた。

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