【6話】幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

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 心がざわついている私に気づくことはなく、絵美は話を続けた。
「でも、三か月だけ。だから、私たち付き合っていたとは言っても、キスもしていなくて……」
 切なそうにそう言う絵美に、私はどう声をかけたらいいのか分からない。ただ黙って、頷くしかなかった。
「それも、私が振られたんだ。ほら、私って思い込むと攻撃的になることがあるじゃない?」
「う、うん……」
「隼人くんがね、他に好きな人がいるんじゃないかなって、疑いたくなるような雰囲気があったから、顔を合わせるたびに問い詰めちゃって。彼が疲れたの」
「好きな人? それは、本当なの?」
 隼人に、それほど好きな女性がいるとしたら、それもショックだ。だいたい、絵美のことを好きだから付き合っていたんじゃないの?
 彼女の話に、さらに混乱をしてくる。
「たぶん。彼から聞いたわけじゃないけど。ただね、隼人くんがずっと大切にしているものがあるのよ。それが怪しかったの」
「どういうもの?」
 そんなものがあったことすら、私は知らない。隼人がアメリカへ行ってから、きっと好きな女性ができたのだろう。
 その人との思い出を、大切にしているのかもしれない。とはいえ、絵美にとってそれはとても切ないこと。彼女が問い詰めたくなる気持ちも、分からなくはない。
「それがね、キーホルダーなの。それも、子供っぽいもので。丸くて青い鈴がついてるものだけのシンプルなデザインよ。それを、たまたま彼の部屋で見つけちゃって。かなり怒られたから、不審に思ったのよね」
「青い鈴のキーホルダー?」
 と言われて、鼓動が速くなる。小学校の修学旅行で、お揃いのキーホルダーを買ったことがあった。
 なんでも、ご当地もので、願いごとが叶うとか。一人で持っていてもいいし、男女ペアで持っていると、二人は恋人同士になれるというものだった。
 そのときのキーホルダーが、赤い鈴と青い鈴がついているだけのもの。それを、隼人が大事に持っていたかもしれないということ?
 でも、あのときは、軽い気持ちでお揃いのものにしただけ。それも、隼人はほとんど冗談半分で買っていたのに。
 もちろん、私はそのときから彼が好きだったから、内心本気だったけれど。
「ねえ、佳穂。おかしいと思うでしょ? もっとブランドものとかならともかく、安っぽくて子供でも持てそうなものなのよ。きっと、彼の思い出の品なんだろうなって思って」
「そうなのかな……」
 それ以上、私からはなにも言えない。もし、絵美の言うキーホルダーが、あのときのものなら、隼人はどうしてそれを大切に持っているの?
「きっと、そうよ。隼人くんと付き合ったのも、私から強引に頼み込んだようなものだし」
「絵美から告白したってこと?」
「そうよ。一度は断られたんだけど、試しに付き合ってって。でも、やっぱりダメだった」
 絵美がそれほど積極的なタイプだったことに、さらに驚く。ただ、隼人が女性の押しに弱いタイプとは思えないのだけど。それとも、子供の頃とは違っているのかな。
「まあ、過去はどうであれ、私はまだ隼人くんに未練があるの。だから佳穂、お願い。協力してくれない?」
「えっ……。協力?」
 そんなことを言われても、隼人を好きなのは私も同じ。とても、頷けなくて黙っているしかなかったけれど、絵美はそれほど気にならなかったみたい。
 その後は普通にランチを済ませると、オフィスへと戻った。

「浅井さん、これ間違ってるよね?」
 隼人の赴任から一週間が経ち、私は彼から二度目の“呼び出し”を受けた。隼人は、朝早く出社していて、退社が遅い。昼休憩も仕事の区切りがついてからだったり、休憩を取っていないときもある。
 そういう事情があり、今日まで仕事以外の会話はできていないし、オフィス以外で顔を会わせることがなかった。
 だから、まだ彼に、私のことを覚えているかさえ聞けていなかった。ただ、もし聞けるタイミングがあったとしても、その勇気があるかどうか。隼人は、とにかく会社では素っ気ない。
「はい……。すみません、気づかないままでした」
 A四サイズの紙に印刷されて渡されたものは、私の発注表を印刷したもの。裕太の担当分で、昨日の夕方に打ち込んだものだった。
「ダブルチェックはしてる?」
 鋭い眼差しを向けられ、たじろいでしまう。隼人って、こんな怖い表情をする人だったっけ?
「いえ……。発注の締めの時間ギリギリだったもので、していませんでした」
 素直にそう答えると、隼人はこれみよがしにため息をついた。それが妙に凄みがあり、さらに萎縮してしまう。

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