【5話】幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

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「あ、ごめん。なんでもないの」
 と言いながらも、絵美はちらりと視線を隼人のほうへ向けている。今、視線の先には隼人以外の人は座っていない。
 時計があるわけでも、表があるわけでもないから、絵美が見ているのは隼人で間違いないはず。
 二十五歳の若さで課長に昇進、しかもニューヨーク帰りでイケメン。そんな隼人は、さっきからずっと女子社員の注目を集めているけれど、絵美は彼女たちとは少し様子が違う。
 ミーハー的な目で見ているというより、どこか切なそう。もしかして、隼人を知っている──?
 そう考えてみたけれど、私は小中学校が隼人と一緒で、絵美はいなかった。
 その後は隼人はアメリカへ行ったのだから、絵美が彼と知り合うきっかけはないはず。
 私が、気にしすぎているだけかな。そう思ってみたけれど、やっぱり絵美の様子が気になってしまった。

浅井あさいさん、この発注だけど、これはなに? 数が多すぎないか?」
 さっそく、隼人に声をかけられ、緊張しながら彼のデスクへ向かう。一課のメンバーの座席表を確認していたから、私の名前ももちろん知ったのだろう。
 それなら、私が幼なじみの佳穂だって、気づいてくれたかな。ドキドキするけれど、隼人はまるで意識をしていない様子で私をデスクから見上げた。
 近くで見ると、やっぱり子供の頃の面影がしっかり残っていて懐かしい。それに、声も──。あの頃より、少し低めになっていて、大人っぽさが増しているけれど、耳心地のいい隼人の声だ。
「すみません。小松さんからの依頼なので、疑問にも思いませんでした」
 とはいえ、今目の前にいるのは“上司”としての隼人。それに、私を見ても表情ひとつ変えないところを見ると、気づいていないのかもしれない。
 それとも、気づいていたとしても、無視をされているか。私の片恋だったのかもしれないけれど、せめて幼なじみとして声をかけてくれたら嬉しいのにな──。
「小松くんか。彼は結構、受注を受ける金額が大きいんだな。分かった、彼が戻ったら直接聞いてみる」
「はい。すみません」
 隼人は早々にパソコンに目を移して、仕事を再開させている。私はというと、会釈をして自席へと戻った。
 素っ気ない雰囲気に、どこか気落ちしてしまう。業務中に、昔話なんてできないけれど、せめてもう少し気さくな感じがあってもいいのに。そんなことを考えながら椅子に座ると、由紀ちゃんが興奮気味に囁いてきた。
「田辺課長って、もう一課のことを把握しているんですね。小松さんの営業内容とか。まだ、赴任してきて一時間半ですよ?」
「たしかに、凄いわね。さすが、ニューヨーク支社で成績を上げてきただけあるかも」
 クスッと笑って返したものの、心はモヤモヤする。それだけ頭のいい人なのだから、私のことも当然気づいているはず。
 それなのに、他人の顔をされているということは、私と幼なじみだったと知られたくないのかもしれない。
 隼人に再会できた嬉しさから一転、切なさでいっぱいになる。ため息が漏れそうになりながら仕事を進め始めると、今度は絵美が声をかけてきた。
「ねえ、佳穂。今日は一緒にランチしない?」
「え? うん、いいよ」
 絵美がランチに誘ってくるなんて、珍しい。いつもは、他課や他部署の人たちとお昼に行くのに。それに、今日はとてもおとなしい。それこそ、席を空けて他課の偵察に行く彼女が、ずっと自席にいる。
 もしかして、隼人となにか関係がある? もやもやはさらに大きくなり、お昼までどこか落ち着かなかった。

 十二時になり、私と絵美は会社の近くにあるイタリアンへ向かった。夜にはバーにも変わるオシャレなお店で、お昼時はOLさんで賑わっている。
 そこの窓際の席に通された私たちは、さっそくランチコースを注文した。サラダやバケット、スープが出されて、それらを口にしながら絵美が静かに言った。
「あのね、今日から赴任してきた田辺課長って、私の元彼なの」
「えっ!? 元彼……?」
 思いがけない彼女からの言葉に、私は呆然とする。いったい、絵美はいつ隼人と付き合っていたのだろう。
 動揺しながらも、頷く絵美を見つめた。
「うん。私ね、大学生のときに、一年間アメリカに留学をしたことがあって。そのとき、友人の紹介で彼と出会ったの」
「絵美、留学してたんだ……?」
 それは初耳で、驚いてしまった。まさか、アメリカで二人が出会っていたなんて。想像もしていなかっただけに、受け止めるだけの余裕がない。

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