【4話】幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

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 ここは、五十二階建てのオフィスビル。入居しているのはうちの会社だけではなく、いろいろな企業の本社や支社が入っている。
 その中でうちは、四十階から五十階の約十フロアを占めていた。営業部はそのなかで四十階にあり、広報部は五階上にある。
 同じビル内での異動とはいえ、突然の配置換えで、栗田課長は相当気落ちしていた。
「うちの会社って、厳しいとは聞いていたけど、本当なのね」
 肩をすくめる私の背中を、誰かがポンと叩いた。
「元々、そういう条件だったんだろう? 成果が上がらなければ、部署異動って。ただ、あまりに営業成績の向上が見られないから、年度途中の配置換えになったらしいけど」
 そう話に入ってきたのは、同期の裕太ゆうただ。裕太は営業職で、普段は外回りをしている。日焼けした肌と、広い肩幅。それに、ハーフと見間違えそうなほどの派手めなルックスで、それなりに女子社員から人気がある。
 裕太とは、波長が合うのか、入社当時から仲がよく、ご飯を食べに行ったりもするほど。
 だから由紀ちゃんには、付き合えばいいのにと、からかわれたこともあるけれど、私の心には隼人しかいなくて、とても裕太を恋愛対象として見られなかった。
「裕太、いつの間に帰ってたの? 帰社するには早くない?」
「帰社したんじゃなくて、打ち合わせに出てたんだよ。外回りはこれから」
「ふうん。そう。じゃあ、裕太も新しい課長の紹介は見てた?」
 みんなはさっそく『田辺課長』と呼んでいるけれど、私はどうも照れくさい。
 隼人を名字で呼んだのはいつ頃までだったか、それすらも思い出せないくらいだから。
「後ろのほうで見てたよ。それにしても、かっこいいよな。二十五歳って、俺たちと同学年じゃないか」
 裕太は隼人のデスクへ顔を向ける。私もときめく気持ちを抑えながら隼人に目を向けた。
 デスクを整理し終わった彼は、さっそくパソコンで入力を始めている。タイピングの速さに、驚いてしまった。
 これから毎日、隼人に会えると思うと嬉しさでいっぱいになるけれど、隼人は私に気づいているのだろうか?
 さっきは、数十人の人がいたから、私に気づかなくても不思議じゃない。
 だけど、今日からは私は同じ課の部下になる。名前を見れば思い出してくれると、期待したかった。
 ずっと、隼人に会いたかったもの。でも、どうやって連絡を取ればいいのかも分からずに、心だけ十年前で止まったまま。
 隼人も、私を忘れないでいてくれていたらいいな。
「おい、佳穂。田辺課長をずっと見てないか? お前も、やっぱりタイプ?」
 ほんの少し過去に浸っていると、裕太の声がして一瞬にしてリアルに引き戻される。
 私のデスクから隼人のところまで、三席分の距離しかない。そんなに大きな声で話したら、隼人に聞こえてしまう。
 内心は大慌てになりながらも、表には出さずに裕太を睨んだ。
「違うわよ。裕太の勘違いだってば」
 言い返すと、裕太は楽しそうに私の反応を見ている。すると、由紀ちゃんが会話に乗ってきた。
「ですよね。だって、佳穂先輩は小松こまつさんと仲がいいんですし。お二人って付き合わないんですか?」
 “小松”とは裕太の名字で、彼女からの突っ込みには動揺を隠せなかった。
「な、なにを言ってるの? 裕太とは、そんな関係じゃないって」
 日ごろから、この手の指摘はよく受ける。今まで、何人に裕太と付き合えばいいと言われたか。
 普段は適当に返すけれど、隼人に聞こえているかもしれないと思ったら、この会話はとても気まずかった。
「そうだよな、由紀ちゃん。俺も、それがいいと思うんだけど、佳穂がうんって言ってくれなくてさ」
「やっぱり。佳穂先輩って、彼氏さんを全然作らないから、本命は小松さんだと思ってるんですけどね」
 二人とも、どこまで冗談で言っているのだろう。すっかりペースを呑まれた私は、大きくため息をついた。
「もう、由紀ちゃんってば、これ以上からかったら、もう仕事で助けてあげないから」
 わざとらしく意地悪に言うと、彼女は慌てながら謝ってきた。そんなやり取りを見ている裕太は、ハハハと笑っている。
 いつもなら、こういうのも楽しいけれど、今は気まずさでいっぱい。その後、裕太が外回りに出て、私も由紀ちゃんも仕事を始めると、どこへ行っていたのか、絵美が戻ってきた。
 私の向かいが彼女の席で、どこか強張った顔で腰を下ろしている。
「絵美、なにかあった? 様子がおかしいけど」
 小さな声で話しかけると、絵美はハッとしたように私を見た。彼女にしては珍しく、心ここにあらずといった感じだ。

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