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【31話】幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

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「俺が、佳穂に発注数を間違えて伝えたと言ったから」
「そんな……。裕太は、きちんと私に伝えたわ。それは、ちゃんと覚えてる」
 だからこそ、裕太は最初私にミスをしていると教えてくれたのだし、私も素直に認められた。
 それなのに、裕太がミスをしただなんて、それは絶対に間違っている。
「その証拠は? 口頭で伝えたんだ。俺が正しいと言える?」
「裕太……。私のミスを被るなんて、絶対に正しくない。私、本当のことを田辺課長に言う」
 身を翻し、非常扉を開けようとしたとき、裕太に腕を掴まれた。
「いいんだ。俺の罪滅ぼし。佳穂を、騙して誘ったこと。お前を混乱させたこと。それを、償いたい」
 裕太は、じっと私を見据える。その気迫に、気圧されそうになりながら、自分の気持ちをしっかり持った。
「それと、仕事は別の話よ。それに、罪滅ぼしだなんて、やめてほしい。そんなに、酷いことをされた覚えはないし」
「俺さ、少し自惚れていたんだ。佳穂とは、仲良くできていたし、周りにはやし立てられて、佳穂の気持ちなんてそっちのけだった」
「裕太の気持ちは、とても嬉しい。だけど、やっぱりこんなのはおかしいから」
 私は裕太の腕を思い切り振りほどくと、足早にオフィスに戻る。裕太が背後から、私の名前を呼んでいたけれど、それを無視して隼人の元へ向かった。
「田辺課長、お話があるんです」
 パソコンに向かっていた隼人が、私を怪訝な顔で見上げた。それと同時に、息を切らした裕太がやってきた。
「佳穂、本当に……」
「課長、小松さんの発注ミスですが、あれは私のミスなんです」
 心配そうに声をかける裕太の言葉を、私は遮った。そして、隼人は今まで見せたことのない険しい顔で、私と裕太を見比べた。
「どういうことか、説明してもらおう」

 隼人は、私たちを別の部屋へと連れていった。そこは、会議室として使われる場所で、同じフロアの奥にある。
 ひんやりとした冷たい空気の室内で、隼人はブラインドを開けた。自然光が差し込み、それまでの薄暗さから明るくなった。
 私たちは、立ったまま、隼人へ事情を説明する。それを黙って聞いていた彼は、険しい顔を崩さず言った。
「事情は分かった。小松くんが、同期の浅井さんを庇いたい気持ちは分かる。きみたちの絆は、深いのだろうから。ただ、嘘はよくない」
「申し訳ありません。ただ、僕が勝手にやったことです。浅井さんは、関係ありませんので」
「でも、ミスをしたのは私です。責任は、私にあります」
 きっぱり言うと、隼人は大きくため息をついた。
「もういい。分かった。部長に報告をしないといけないことだから、俺が今ここで言えることはない。とりあえず、業務に戻って」
「はい……」
 裕太と部屋を出て、オフィスへと戻る。隼人がついてくる気配はない。
 鉛のように重い気持ちで歩いていると、裕太がポツリと言った。
「なにからなにまで、本当にごめん。俺、絶対に佳穂の心証が悪くならないように、部長にも言うから」
 すっかり肩を落とした彼に、私は静かに言った。
「ミスをしたのは私。裕太は、それを庇おうとしただけ。それが、事実じゃない。裕太が謝ることじゃない。謝るのは私のほう」
「違う、佳穂じゃない」
 必死に否定する裕太に、私は真剣な眼差しを向けた。
「私なの。裕太への気持ちをうやむやにしていたり、隠していることがあるから、こうなっちゃった」
「佳穂……?」
 怪訝な顔を向ける彼に、私はそれ以上はなにも言わずドアを開ける。裕太も、追及することはなく二人で自席へ戻った。
 すると、私のデスクの上に、身の覚えのないパンフレットが山積みになっている。
 一瞬、呆気に取られていると、絵美の声が聞こえた。
「それ、シュレッダーかけておいて。差し替えをするから」
「え? ちょっと待ってよ。なんで、私が……?」
 椅子に座るのも忘れ、向かいで業務をしている絵美を睨む。すると、彼女はクスッと笑った。
「だって、一課の営業さんが使うものじゃない。私たちの仕事でしょ?」
「だったら、絵美がやればいいじゃない。どうして、自分で処理しきれないのに、引き受けてくるの?」
 溜まったフラストレーションを、絵美に当てているのは自覚している。だけど、どうしても黙っていられなかった。

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