【3話】幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

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「営業部のみんな、手が空いてる人は集まってくれないか?」
 それから約一時間後、営業部長が声をかけてきた。フロアには、他部署も入っているから、その人たちからも視線を集めている。
 業務中に、営業部全体に声をかけるのは珍しいから、私たちもお互い顔を見合わせながら部長の近くへ行く。
 しかも、普段なら部長のデスクの近くへ集合させられるのに、今日はなぜか出入口の近く。そのことも、私たちには不自然に映っていた。
 集まると、一課の栗田くりた課長が部長と一緒に立っているけれど、顔色が冴えない。青白いというか、普段の穏やかな課長とはまるで違っていた。
「今日は、一課の新しい課長を紹介したいと思う。急な人事異動でみんなには混乱させてしまうが、会社の意向ということで受け入れてほしい」
 部長の言葉に、一瞬にしてざわつき始める。異動の季節でもないのに、いったいどうしたというのだろう。
 それに、一課の新しい課長が赴任してくるとなると、栗田課長はどうするのか。各課、課長は一人しかいないけれど、一課だけは二人体制になるとか?
 あれこれ考えを巡らせていると、隣に立っている絵美が声を潜めて言った。
「栗田課長は転勤ね。一課の成績が悪くて、立て直しで赴任してきたのに、結局三年経っても成果が出なかったから」
 そう言われ、妙に納得してしまう。私たち本社の営業一課は、会社の中でも花形部署と言われている。
 取引先は大手の企業ばかりで、扱う金額も膨大。会社の利益に直結するだけに、やりがいがある分、とりわけ厳しい部署でもあった。
 その一課が、私が入社したときからすでに、営業成績が下降気味。
 そんなとき、やり手と言われていた栗田課長が、二課から赴任してきた。受注金額を増やすことを求められていたけれど、この三年間での一課の成績は微弱に上がっただけ。
 それも、ときには落ちることもあり、部長も一課には特に厳しい目を向けていたところだった。
 栗田課長が今朝いなかったのは、この突然の人事の話があったからかもしれない。
 普通なら、前もって異動は本人にも周囲にも知らされるのに。今回は、前触れもなくの発表だもの。課長の顔色が冴えないのも、理解できた。
 だからこそ、今回の人事がかなり特別なものだとも分かる。
「それでは、新しい課長を紹介しよう。とても若い人だから、驚くかもしれないけれど、ニューヨーク支社から赴任された人だ。かなりのやり手だぞ」
 部長の言葉には、強い期待感が込められている。それだけ凄い人だということが分かるけれど、これだけ出し惜しみをする紹介の仕方に違和感を覚えていた。
 新しい課長は、どんな人なんだろう。営業部の人たちも、緊張した眼差しで部長を見つめている。
 すると、部長がドアを開けた。ゆっくりと入ってくるその人を見て、思わず声を上げそうになった。
 部長の横に立ったその人は、私の初恋の人、隼人にそっくりだったから。
 中学三年生のときに離れてから、もう十年になるけれど、とてもよく似ている。隼人は、可愛い感じのルックスだったけれど、今ここにいる人は甘いルックスの男性だ。
 二重の少し垂れた目元や、通った鼻筋に、形の整った唇。どれもが、隼人と同じだった。
 まだ、彼と決まったわけじゃないのに、動揺して鼓動が速くなる。そんな中、静まりかけていた周囲がまたざわつき始めた。
 この新しい課長が、男性としてとても魅力的に見えるから。思わず目を引くほど、背が高く手足が長い。
 女子社員の「かっこいい」という呟きが、どこからか聞こえてきた。
「ニューヨーク支社から赴任してきた、田辺たなべ隼人課長だ。二十五歳という若さだが、ニューヨークでは大きな取引を成功させてきた人でもある。特に一課は、田辺課長の指示をよく聞くように」
 新しい課長の紹介がされ、まるで夢を見ているような気分になる。本当に、隼人と再会するなんて信じられない。
 それも、同じ会社で働いていて、私の上司になるなんて──。
「田辺隼人です。急なことで驚かれていると思いますが、今日よりよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
 営業部みんなの挨拶とともに、隼人の紹介が終わった。

「栗田課長、本当に気の毒ですよね? 今日から、いきなり広報部とか」
 デスクに戻ると、由紀ちゃんが声をかけてきた。栗田課長は早々に荷物をまとめて部屋を出ていった。

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