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【28話】幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

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 素直な気持ちで、彼女の言葉を受け止めることができない。すると、今度は絵美からメールが送られてきた。
≪今度は、一課の受注表の整理をお願い。四半期決算のときに使いたいから≫
 そう書かれていて、思わず彼女へ目をやる。だけど絵美は、私を気にすることなく、黙々と仕事をしていた。
 本当は、口に出して抗議したい。でも、隼人に心配をかけたくなくて、ここは呑み込んだ。
 四半期決算なんて、まだ先のこと。今すぐしなければいけない業務ではないのに、どうしてこんなことを頼んでくるのだろう。
 もやもやしながらも、絵美に言われたデータ整理をした。

≪浅井さん、今日の十三時に、応接室に来て≫
 隼人から、そんな社内メールがきたのは、水曜日のことだった。直接声をかけず、メールで呼び出したのは、きっと絵美のことがあったからだと思う。
 それが分かったから、指示された十三時になると、そっと席を空けた。午後からは、業務でバタバタすることもあり、少しの間なら離席も目立たない。
 フロア奥の応接室へ向かうと、ドアをノックして入った。
「佳穂、ごめんな。呼び出して」
 隼人は、いつものように鍵をかける。私は、小さく首を横に振った。
「ううん。メールで呼び出してくれたのは、絵美のことを考えてくれたからでしょ?」
 ストレートに聞くと、彼は頷いた。
「小畑さんは、かなり怪しんでいるみたいだからな。ここ数日の彼女の行動は、きっとそれが原因だと思う。佳穂に、嫌がらせをしているだろう?」
「やっぱり、そうなのかな」
「そうだろう? 明らかに、おかしい。本当は、彼女に注意をしたいところなんだが」
 隼人の苦渋の表情を、切なく感じてしまう。私を心配してくれているからだと、分かるから。
 皮肉にも、絵美から依頼された業務は、営業さんに好評だった。
 データ整理だから、営業さんたちからしてみれば、とても利用しやすくなっているらしい。
 ただ、それをみんなが絵美のお陰だと思っていることが、私にとっては理不尽に感じていた。
 その辺りは、絵美はとても立ち回りがうまい。営業さんに評判なだけに、隼人は絵美に注意ができなかった。
 だから、彼がもどかしそうにしているのが、私もいたたまれなかった。
「隼人が、気にすることじゃないよ。営業さんに好評なら、私がやっていることも、無駄じゃないってことだし」
 隼人にフォローをするように言ったけれど、彼は少しも微笑んではくれなかった。
「でも、そのせいで佳穂の退社時間が遅くなってるじゃないか。労働時間を確認させてもらったけど、この三日の残業時間が多い」
 鋭い指摘をされ、私は俯くしかない。絵美の無理やりな業務依頼は、その気になれば断れるもの。
 それなのに、彼女の言うなりになっているのは、どこか絵美に後ろめたい気持ちがあるから。
 ほとんど私の責任なのに、隼人に心配をかけさせているのが申し訳ない。
 やっぱり、そろそろ絵美の無理強いな依頼は、断らなければいけない。隼人のほうへ視線を上げると、きっぱりと言った。
「心配かけてごめんなさい。次は、はっきり断るから」
 そう言うと、隼人は切なそうな顔をする。そして、私をそっと抱きしめた。
「は、隼人……」
 こんなときでも、私の胸はドキドキする。隼人は、私の髪を優しく撫でた。
「謝るな。佳穂を心配してるのは、お前の恋人としてだ。上司としてじゃない。むしろ、お前を守れていない自分に、嫌気がさす」
「そんな……。隼人は、私の側にいてくれるだけでいいの。それに、忙しくて、週末以来メールすらできていなかったじゃない? だから、こうやって抱きしめてくれて嬉しい」
 素直に、気持ちを伝える。これ以上、隼人に心配をさせたくない。ぎゅっと彼を抱きしめて、私はゆっくりと離れた。
「戻らなきゃね。あんまり離席をしていたら、怪しまれちゃう」
「そうだな。戻ろう」
 業務中でなければ、もっともっと隼人に甘えていたかった。彼の優しさは、私を強くしてくれるから。
 鍵を開ける間際、隼人が軽く唇にキスをしてくれた。その感触を大事に思いながら、私はデスクに戻る。
 すると、青い顔の裕太が耳打ちをしてきた。
「佳穂、お前ミスしてる」
「え?」
 一瞬、彼の言葉が理解できなくて、呆然とする。だけど、裕太の表情が強張っていて、事の重大さを物語っていた。
「とにかく、パソコンで確認しろ」
 小さな声で話してくれているのは、きっと周囲へ聞こえないようにするため。
 裕太の優しさが垣間見えて、チクリと胸が痛んだ。彼に言われるがまま、パソコンを操作する。

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