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【21話】幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

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 隼人は、顔を近づけてきて、唇を重ねた。鍵を閉めたのは、最初からそのつもりで──。
 そういえば再会して初めて話したときも、隼人は鍵をすぐに閉めていたっけ。
「ん……。隼人……。ここ、会社だから」
 ほんの少し唇が離れたところで、気持ちとは裏腹に彼の体を押し返そうとする。
 でも、隼人は私の腕を掴むと、愛おしそうな目で見つめながら小さく言った。
「佳穂が、声を出さなきゃ分からないさ」
「で、でも……」
 抑えていても、声が出てしまうほどに、隼人のキスが濃厚すぎる。社内での秘密の関係とこのキスに、私はすっかり酔いしれていた。

「佳穂さ、ちょっと綺麗になったよな」
 外回りから帰ってきた裕太が、まじまじと私を見つめて言った。
「えっ? そんなことはないわよ。裕太の気のせいじゃない?」
 特に、なにも変わっていないはず。メイクだっていつもと同じ。服装だって。
「あー、それ私も思ってました。佳穂先輩、週末になにかありましたか?」
 由紀ちゃんまで会話に入ってきて、内心ギクっとする。週末は、隼人と甘い時間を過ごして、ついさっきも応接室でキスを交わした。
 それが頭の中をよぎり、動揺してしまう。すると、裕太が顔を覗き込んできた。
「なんか、隠しごとしてるだろ? お前、まさか彼氏できた?」
「えっ? 佳穂先輩、そうなんですか?」
 間近に見る裕太の顔も、負けじと私を覗き込む由紀ちゃんにも、たじろいでしまうばかり。
「そ、そんなわけないじゃない。二人とも、勘違いしてるだけよ」
 心の内を悟られたくなくて、努めて笑顔を作ってみた。向かいの絵美は、一瞬私に目を向けたけれど、すぐにパソコンに視線を戻している。
 興味がないといった感じだ。
「そうか? いや……やっぱり怪しい」
 納得できない裕太は、眉間にシワを作って私を見ている。しかも、目は真剣で怖いほどだ。
「も、もう。裕太ってば、そろそろ外出するんじゃないの?」
 話を切り上げたくて、裕太の体を押し返す。あまり近づかれると、それだけで戸惑ってしまうから。
「まだ行かないよ」
「そうですよねー。小松さんにとっては、一大事ですよ。佳穂先輩に彼氏さんができたら、立ち直れないですよね」
 と、由紀ちゃんも、どこまで本気で言っているのか分からないことを口にする。
「なに言ってんのよ」
 どこかムキになっている裕太の姿に、動揺してしまう。すると、隼人がゆっくりと私たちの側へ来た。
「三人とも、業務中にふさわしい会話じゃないな。手も止まってる」
 腕を組んでいる隼人は、私たちをきつい目で見ている。さすがの裕太も、彼の登場には驚いたようで、「すみません」と平謝りだった。
 私と由紀ちゃんも、小さくなりながら、「すみませんでした」と言うと、隼人は呆れた様子でデスクへ戻っていった。
「田辺課長って、なんか威圧感あるよな。実は、俺や佳穂の同期になるんだろ? とても、信じられないなあ」
 裕太は首を横に振りながら、自席へ帰っていく。私と由紀ちゃんも、パソコンに向き直った。
 たしかに、裕太の言うとおりで、隼人が同期とは思えないくらいオーラが違う。
 さすが、スピード昇進をしていることだけあって、こちらが気圧される雰囲気があった。
 隼人に叱られるのって、結構情けないものなんだなと、自己嫌悪に陥っていると、ふと正面にいる絵美が隼人に目を向けているのが分かった。
 彼を見つめる、どこか切なそうな表情に、私の胸はチクリと痛む。秘密で付き合うというのは、想像していたよりずっと後ろめたかった。でも、だからといって、やっぱり隼人を失いたくはない──。

 あっという間に週末がきたことに、若干の戸惑いを覚える。なぜなら、日曜日以来、隼人とまともに会話をしていないからだ。
 もちろん、社内で業務の会話ならある。でも、社外で会うこともなく、電話やメールもしていなかったことに気づく。
 隼人は、仕事がとても忙しいようで、朝は誰よりも早く出社して、帰りは誰よりも遅いらしい。
 それを耳にしていたから、私からの連絡は控えていた。疲れているところに、電話やメールも迷惑だろうから。
 そんなことを考えて過ごしていたら、もう一週間が終わる。明日は土曜日で、私は仕事が休みだけれど、隼人はどうなんだろう。
 もし、休みなら会いたい。それとなく、休みなのか聞いてみようか。さらっと聞けば、怪しまれないだろうし。
 終業間近になったところで、隼人の様子をデスクから窺い見る。今なら、それほど忙しくなさそう。
 心の中で喝を入れて立ち上がりかけたとき、裕太に声をかけられた。ついさっき、外回りから帰社したらしい。

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