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【20話】幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

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 一課の営業さんは七人いる。それぞれにアシスタントがついているけれど、出来上がっている人はいるのだろうか。
 たしかに私も疑問に思い始め、絵美の答えを待つ。
 だけど、なぜか絵美は答えに詰まっていた。
「まだ、誰も終わっていないということなんだな。分かった。それでもいい。小畑さん、どこのファイルにそのデータがある?」
 ため息交じりの隼人は、さらに問い詰めるように聞いた。
「そ、それが……」
 もはや、絵美の顔は青ざめている。いったい、どうしたというのだろう。さすがに心配になってきたとき、隼人が低い声で言った。
「表もなにも作ってないってことか?」
「……はい」
 絵美は、消え入るような声で返事をした。
「それなら、浅井さんはどうやって、小松くんの受注件数を入力すればよかったんだ? それに、項目もなにもないということだよな?」
 私でも凄みを感じるくらいに、隼人の口調が太い。他の事務の女性たちは、聞こえていない振りをして黙々と業務を進めている。
 絵美はもう、なにも言えなくなっていた。唇がかすかに震えて、目も泳いでいる。
 そんな彼女を見限ったように、隼人は冷たく言い放った。
「小畑さんが言っていたデータというのは、今はこちらに必要ない。きみの依頼した業務は、ないものと思っていいな」
「はい……」
 ようやく返事をした絵美は、逃げるようにオフィスを出ていった。反射的に追いかけようとした私に、隼人は声をかける。
「浅井さん、追いかけなくていい。業務を進めろ」
「はい、分かりました……」
 隼人の命令なら、従うしかない。彼も、身を翻しデスクへ戻っている。大きく息を吐き、椅子に座ったと同時に、由紀ちゃんが声を潜めて言ってきた。
「田辺課長って、かっこいいですよね。佳穂先輩のことを、守ってくれて。栗田課長のときは、それがなかったですもん」
 そう言われ、私は小さく微笑むだけ。隼人に助け船を出してもらえて、嬉しかったけれど、絵美は立ち直るまでに時間がかかりそうだ。なにせ、私に意地悪をしたくて、依頼した業務だったと、隼人に見抜かれたのだから。
「小畑先輩はこれに懲りて、佳穂先輩への嫌がらせをやめてくれたらいいですね」
 由紀ちゃんの鋭い意見に、小さく頷いた。

「浅井さん、ちょっといい?」
 夕方、十七時を回った頃、隼人が声をかけてきた。絵美は、あれから数十分後には戻ってきて、仕事を再開している。
 さすがに堪えたようで、黙って業務をこなしている。だけど、私が隼人に声をかけられたことで、絵美はこちらに視線を向けた。
 でも私は、どこか気まずくて、それに気づかない振りをした。
「はい……」
 隼人は応接室へ私を招くと、さっそく鍵を閉めた。
「佳穂、結構大変だな。小畑さんとのことは、栗田課長からも引継ぎで聞いてる。まさか、あれほどとは……」
「それを話すために、呼び出してくれたの?」
「当たり前だろう? 俺は佳穂の上司なんだ。放っておくわけにはいかない」
 頼もしい隼人の言葉に、心が温かくなってくる。すると自然に、笑みがこぼれていた。
「分かってもらえるだけでも嬉しい。彼女は、仕事に一生懸命なんだけど、ちょっと空回りしてるのよ。私は同期だから、余計に言いやすいんだと思う」
「でも、だからってあれはないよな。他のみんなにも、ヒアリングをしようと思っているけど」
 腕を組んで考え込む隼人の手に、私はそっと触れた。
「他の事務の子のケアはしてあげてね。でも、私は大丈夫。さっきみたいに、絵美にはきちんと意見を主張するから」
 忙しい隼人を、私のことで煩わせたくない。他の子は、私たちより後輩になるから、反論したくてもできない部分もあるはず。
 彼女たちのほうに、気持ちを向けてあげてほしい。そんな思いで言うと、隼人に優しく微笑まれた。
「俺が心配しているのは、佳穂が部下だからだけど、それ以外にも理由はあるんだぞ?」
 私に近づき、両頬を包み込む。二人きりの場所とはいえ、社内での大胆な行動に一気に緊張してきた。
「どんな、理由なの?」
「お前が好きだから。彼女でもある佳穂が、あんな風に意地悪されていて、黙ってはおけないだろ?」
「隼人ってば……」
 その気持ちだけで充分。絵美の行動に感じていたストレスだって、吹き飛んでいく思いだった。
「だから、大丈夫だなんて言うなよ。遠慮せず、俺を頼れ」

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