【11話】幼なじみエリート上司と一途で秘密な両想い

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 隼人の背中に手を回し、しばらく彼の胸に顔を埋めていた。ほのかに香る柑橘系のコロンの匂いが、隼人がもう大人の男性なのだと教えてくれる。
 想いは十年前で止まったままだけれど、確実に時は過ぎていったんだ──。
「たださ、今の俺たちは上司と部下だろ? しかも、俺は赴任したてだし。周りを混乱させるわけにもいかないから、当分俺たちの関係は秘密にしておきたい」
「うん、分かった。そうするね。隼人の足手まといにだけは、なりたくないから」
 隼人には、課せられた責任があるもの。それを支える存在になりたいから、彼の言うとおりにする。
「それから、佳穂に話しておきたいことがあって……。お前の同期の小畑さんのことだけど」
「隼人の元カノだって言うんでしょ? 本人から聞いた」
 隼人の温もりを感じながら言うと、彼に体を離された。それを少し寂しく思いながら彼を見ると、驚いた顔をされてしまった。
「あ、ああ……。彼女から、聞いたのか?」
「うん。馴れ初めから、付き合ってる期間まで。二人の間には、なにもないってことも、絵美本人から聞いてる」
 そう話すと、隼人はどこかバツ悪そうな表情をした。
「まさか、赴任先に小畑さんと、佳穂がいるとは思ってもみなかったから、かなり動揺したよ」
「私だって、まさか隼人が上司になるなんて思わなかったもの。絵美には申し訳ないけど、やっぱり私は隼人が好き。それは譲れない」
 彼女に、どれほど恨まれるだろうと思う。だけど、たとえどんなに非難されたって、もうこの恋を手放したくなかった。
「小畑さんから、ここへ赴任してからも告白をされた。でも、もちろん断っている。俺だって、佳穂をもう離さない」
「うん……。やっぱり、隼人の優しさは、子供の頃から変わってないね。絵美のことを、隠さないでいてくれたことが嬉しい」
 隼人と離れていた間のことまで、私がとやかく言う権利はない。他の女性に心を向けたって、それは彼の自由だから。
 きちんと話してくれただけで、私には十分だった。
「佳穂、このあと二人で抜けよう。もっともっと、お前と二人でいたい」

 時間差で部屋へ戻ると、そろそろお開きの時間ということで、裕太と会計を済ます。
 それから隼人がお礼の言葉を述べると、解散となった。
「佳穂、今からどうする? どこかで飲み直すか?」
 裕太に誘われたけれど、このあとは隼人と一緒に帰ることになっている。裕太に申し訳なく感じながら、両手を顔の前で合わせた。
「ごめん、裕太。明日は用事があるから、今日はもう帰るね」
 そう言うと、裕太はがっかりとした顔をしている。少し離れた先では、同じく隼人が営業さんたちに声をかけられていた。
 どうやら、二次会に誘われているらしい。隼人も申し訳なさそうに、断っている声が聞こえた。
「仕方ないか。じゃあ、行けるメンバーで二次会にするか?」
 という裕太の掛け声に、由紀ちゃんは他の営業さんたちと一緒に「賛成」と声をあげていた。
 他課の課長に挨拶を済ませると、急いで大通りへと向かう。そこのタクシー乗り場で、隼人と待ち合わせをしているから。
 走っていると、ちょうど乗り場の付近に隼人が立っている。肩で息をする私に、彼は苦笑した。
「走ったら、酔いがまわるんじゃないか?」
「だって、早く来たかったから」
 そう答える私を、隼人は優しく見つめた。
「そういうところ、子供の頃と変わってないな。じゃあ、タクシーに乗ろうか?」
「うん」
 ドキドキしながら、隼人とタクシーへ乗る。すると、彼は自分のマンションへ向かうよう告げた。
「いいよな、佳穂。俺のマンションに戻って……」
「もちろんよ。むしろ、嬉しい」
 後部座席で、彼に手を握られる。幼なじみの私たちは、小学生の頃も手を繋いで歩いたことはあった。
 だけどあの頃は、こんな風に指を絡める繋ぎ方ではない。幼かった頃とは違う隼人の大きな手に、私の胸はさらにときめいていた。
 一次会で解散になったとき、絵美が切なそうに隼人を見ていたことには心が痛んだけれど、それでも彼と二人で会うことに迷いはなかった。
 車中、私たちに会話はなく、お互い窓の外に目を見やるだけ。それでも固く握られた手が、私たちの気持ちの強さを表しているようだった。
 タクシーに乗り、約十分後。車は、駅から徒歩三分ほどのマンションの前で停まった。
 そこは、たしか去年建てられたばかりの三十階建てのマンション。単身者用のマンションとして、ローカル番組で紹介されていた。

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