【21話】消えない恋心、君だけを愛してる

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私の誤解、彼の本気

 古代中国皇帝の宮廷をイメージさせる豪華絢爛な内装に、黒塗りのぴかぴか光るテーブル、上を向けば光り輝くクリスタルのシャンデリアがあるここは、外資系ホテルの高級中華レストランの個室である。そこに私たち、つまり、和己さん、姉の七未、そして私はテーブルを囲んで座っていた。
 私はこの部屋を凍らせているピンと張りつめた空気に耐えながらふかひれスープをすすった。緊張しすぎて味も何もわかったものではない。
 誰かが何か一言でも発言したら負け、とでもルールが決まっているかのように誰も何も話さない。その状態が15分以上続いていた。いつも饒舌な姉がだんまりを決め込んでいるのだ。尚更話など進まない。というか、きっと和己さんさえ怖くて発言できないんじゃないかと思うほど、姉から漂う空気は恐怖を煽る。
 ちらちら和己さんと姉の様子を伺いながら、大人しく状況を見守るしかない。
 横に座っている姉が、スープスプーンを静かに置いた。思わず私の動きも止まってしまう。
 その静止の時間が数秒なはずが、ものすごく長く感じてしまうほど緊迫していた。
「一つだけ聞かせて。カズは未央と本気で付き合ってるの?」
 突然真っ直ぐ和己さんを見据えたかと思うと、姉ははっきりとした口調でそう訊いた。
 和己さんもお姉ちゃんを真っ直ぐ見つめる。まるでドラマのワンシーンのようだ。
「ああ、真剣に付き合ってる。だから、七未に俺と未央の事を認めて欲しい」
 ふたりの真摯なまなざしに見惚れていた私は和己さんの言葉に我に返った。
「ふふふ、そういうことならいいわ。カズ。あーあ、これで私も心置きなく結婚に踏み込めるわぁ」
 えっ? け、結婚? なに? 誰と結婚するの? 今私と和己さんのこと祝福してくれたよね? ということは、お姉ちゃんは誰と結婚するの?
 支離滅裂になる感情にもう収集つかなくて私は姉をただ凝視した。
 そんな私に振り向き姉は満面の笑みを向ける。
「未央ちゃん。あたしも決めたわ。ずっとね、結婚申し込まれてたのよ。うちのCEOに! まぁあれよ、付き合いももう5年になるし、そろそろってせっつかれていたんだけれど……なかなか踏ん切りがつかなかったのよ! カズが未央に真剣なら、未央を大事に守っていく役目は潔くカズに譲るわよ」
 姉と和己さんを交互に見ながら、私は驚きのあまり口をあんぐりあけている状態で何一つ言葉が出てこなかった。
 ご、5年も付き合っている人がいるなんて全然知らなかった! しかもそれって、計算してみると、和己さんと別れてすぐに付き合い始めたってことだよね?
 そーっと彼の方を盗み見る。
 和己さんはというと……。あれ? なんか眉間に皺を寄せてどことなく考え込んでいるような表情だ。も、もしや、ものすごくショックなのではないだろうか? お姉ちゃんが結婚を決めてしまったこと……。まさかまさかの自由主義者の姉が結婚を決めたというのだから私じゃなくても驚くに違いない。和己さんは……まさか、姉が結婚することに傷ついていたりするのだろうか……!? それともやっぱり、5年も付き合ってる人がいること自体私と同じように知らなかった? 知らないよね? だって、言ってくれないんだもん。あーやっぱり、凄くショックなんだ!
 私はどんどんいらぬことを考え始め、それは底なし沼の如く一度はまってしまったら抜け出せないほど深く深く沈んでいくだけだった。
「七未、本気なのか? この場のノリでそう言っているだけならやめておけ。あまり彼の気持ちを弄ぶなよ」
「あらぁ、随分な言い方じゃない! あたしの方が何度もカズに教えてあげたわよね!? 結婚は愛し合っている者同士がするものだって。あたしが結婚するなら彼しかいないの!」
 姉と和己さんの言い合いを聞いていた私は確信した。やっぱり和己さんは姉にまだ未練があるのだ。
 私は居たたまれなくなって席を勢いよく立ち上がった。二人の驚愕した視線が私に向けられる。そして二人同時に名前を呼ばれた。
「「未央!?」」
 こんな時まで気が合っている二人に嫉妬してしまう自分が嫌だった。ぎゅっと唇を噛んで二人の顔を交互に見た。
「私、和己さんのことずっと好きだった。でも、でも、和己さんは今でもお姉ちゃんを思ってる。お姉ちゃんのこと今でも好きなんでしょ? こんなに気が合う二人なんだもの! わ、わたし、和己さんがお姉ちゃんのことずっと忘れられなくて、未練たらたらでも、仕方ないってそんな風に思ってたけど、やっぱりいや!」
 思いの丈を一気にぶちまけた勢いで私はそこから飛び出していた。
「未央! 待て!!」
 和己さんの呼び止める声も無視し、レストランを出て必死で走った。
 雨がしとしと降り始めている。
 私は咄嗟に流しのタクシーに手を上げた。大概は直ぐに捕まえることが出来ないのに今日は一発でタクシーが停まってくれた。
 それに乗り込んだ時、追いかけてきた彼がちょうど私に追いついた。
「未央」
 私を呼ぶ声が聞こえる、窓のガラスを叩く和己さんを私は頑なに無視した。
「出てください」と言うと、運転手は車をすぐに出した。
 とにかく行き先を告げなくては! でも行く場所なんて思い浮かばない。仕方なく自分の住所を告げた。こういうところが全く持って詰めが甘いと思う。でも仕方がない。動転しているし、一度家に帰って、独りで考える時間が必要だった。
 これから、私どうしたらいいんだろう……。
 不安で押しつぶされてしまいそうだ。心細くて和己さんを振り切ってしまったことに、もう後悔し始めている。
 涙が勝手に溢れ出していた。ぎゅっと唇を噛んでそれに耐えるしかなかった。

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