【20話】消えない恋心、君だけを愛してる

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 彼に翻弄されてしまっていた時、彼が言った言葉はうろ覚えだけれど、少し心に引っかかっていた。
 何か消化できない塊のようなものが胸の辺りで詰まっていて、すっきりしない。そんな感じ。
『未央の体が俺の虜になるまで俺じゃなきゃダメになるまで……何度でも抱いてやる。ほかの男に目移りなんかさせない』
 そう言われたと思う。その意味を考える。
 和己さんはお姉ちゃんと別れてから、いや、結婚を断られ、振られてから、誰とも付き合っていないと思う。多分、お姉ちゃんに裏切られたことがトラウマになっているんじゃないだろうか?
 もしそうなら……女性不審とかってこともあり得る?
 ううん、そんなことない。いやでも、そうかもしれない。んーよくわからなくなってきた! 確かなことは、和己さんはお姉ちゃんのせいでトラウマがあるってことよ!
 自己完結し、彼をそっと盗み見る。いつものようにびしっと高級スーツを着こなし、寝てないはずなのに生き生きと活力に満ち溢れているように見える。私はこんなに疲れちゃってるのに、男の人の体力ってすごいなぁなんて考えていたら、彼がこちらに振り向いた。
 優しく微笑んでくれるその表情にトクンと大きく心臓が跳ねた。私も同じように微笑み返した。
「とにかく送っていくよ」
「あ、でも、お姉ちゃんと鉢合わせしちゃうかもしれないから……」
 言いたいことはこれで伝わったようで、和己さんは眉間に皺をよせ、深刻な表情をしたまましばし考え込んでいた。
 その表情を見た途端、嫌な胸騒ぎがし始める。
 ダメ、ダメよ。何も考えない。そう何も考えちゃダメ。
 そう自分に言い聞かせるが不安は募るばかりだ。穴が開くほど彼を凝視してしまう。顔の筋肉の少しの動きも見逃したくない! そう心が訴えていた。
「わかった。少し手前で車を停める。まだ、七未には内緒にしておこう」
 そう言われ、なぜ私は落胆しているのだろう? ああ、やっぱり! そんな風に感じている自分を蹴飛ばしてやりたいが、私の半分以上は“ああ、やっぱり!”に賛同してしまっていた。

 彼が言う通り、マンションの少し前で下してもらい、その後歩いて帰った。マンションのドアを鍵で開け中に入ると、姉のハイヒールがまず目に留まった。
 あ、お姉ちゃん帰ってる!
 そう思った途端、心臓が早鐘を打ち始める。
「未央? どうしたのよ心配するじゃない! 何度も電話したし、メールも送ったのよ! あともうちょっとで警察に電話するところ……」
 玄関を入ったところで固まっている私を見て、姉は口をつぐんだ。
 私の方が呆気にとられ、姉を見つめてしまうが、はたから見ればお互い様子を伺う様に凝視している状態だったに違いない。
「未央、誰とどこに泊まったの?」
 姉のいつも以上に優しい声に背筋に冷汗が流れた。ごくりと唾を呑みこむ。嘘をつくことほど苦手なことはなかった。特に姉の前では……。和己さんからは、まだ内緒にしておこうって言われているし、この状態で正直に話せるわけがない。
 ああ、どうしようどうしようどうしよう!!
 焦燥が募るばかりで私は何も言えないままじっと姉を見つめていた。じわじわとにじり寄るように近づいてくる姉に危機感が増す。怖くて怖くて震えだしそうだ。
「未央ちゃん」
 いつも以上に優しい姉の声に身震いした。
「は、はい」
「あたしの質問に答えられないの?」
 首を傾げ顔を覗き込まれる。息もかかる距離に姉は接近していた。
 ああ、逃げ出したい! どうしたらいいのー!?
 そんな心の声は当然心の中だけで発せられた。
「ふぅーん、言えないわけね。だったらしょうがないわね。あたしが言ってあげましょうか?」
 今度は肩をがっつり掴まれる。私はただ強直していた。けれど何か言わないといけない!
 その焦燥感は半端なかったので馬鹿なことを口走ってしまった。
「お姉ちゃんが知ってるわけない!」
 強気のその発言は当然裏目に出るということを、長年の経験から知っているはずなのに、私はこの時も子供のころと同じ間違いを犯し、姉に全てを知られることとなった。
「むふふ、未央は5歳くらいから成長しないみたいね? お姉ちゃんが何も知らないと思ってるの? いいわ、言ってあげる。カズの家から帰って来たんでしょ? カズと付き合ってるの? それとも……もし、遊ばれてるんなら、ただじゃおかないわよ!!」
 最後の“ただじゃおかないわよ”は私でも震えあがるほどドスが聞いており、この人は任侠映画の姐御かと思ってしまうほどだ。
「あ、あの、姐さん、えっとお姉ちゃん、それはそのぉ、遊ばれてるとかそんなんじゃなくて……」
「あ、そう。真剣に付き合ってるなら、それならいいのよ? 二人が幸せならあたしは何も言うことないの! ただね、カズが煮え切らない態度なら!! 一言言ってやろうと思っただけ……あははっ、未央はずーっとカズ一筋だったわけだし、結ばれたんだったらお祝いしなきゃね! いい、カズに3人で会うように言いなさい」
 女王様の迫力に気圧され、私は言葉も出ず何度も頷くだけだった。
 け、結局、姉に全てがばれてしまったではないか!! ああ、これを和己さんに説明しなくてはいけない。そのことを思うと私の心はどんと沈んでいった。
 でも、本当に姉は私と和己さんが幸せなら祝福してくれるの!?
 姉の本心は妹である私でも掴めないままであった。

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