• HOME
  • 毎日無料
  • 【6話】お見合い相手はスパダリ系ドクターでした!

【6話】お見合い相手はスパダリ系ドクターでした!

作品詳細

 私は会話の中で、自分が話す言葉を一度頭の中で考えてしまう癖がある。だから、いつもみんなよりテンポが遅れてしまう。
 色々なことを考え過ぎて、口にだす前に会話が終わってしまうなんてことも多い。
 だから、たまに修ちゃんが苛立っていることも知っていた。
 優しい人だったけど、何かを決める時に私の意見を聞くことはなかった。きっと私に聞いても、黙ってしまうってわかっていたからだと思う。
 相野谷さんは、私に考える時間を与え話を促してくれるんだ。
「あの……もしよかったら屋上行きませんか? ここ、屋上庭園あるみたいで、天気もいいし、コンビニでおにぎりとか買って食べたら楽しそうかなって。あと……私は年下ですから敬語じゃなくてかまいません」
「おにぎり」
「だ、ダメ……ですか」
 途端に恥ずかしさに襲われる。
 おかしなことを言う女だと思われたかもしれない。
 考えてもみれば、お見合いでおにぎりはないだろう。いくらお腹が空いてたからって。
「ああ、いや……敬語じゃなくていいなら助かる。でもスカイレストランとかあるみたいだけど、本当にコンビニでいいの?」
「あ、はい……なんか、炭水化物が食べたくて」
 私は相野谷さんの言葉に思いつくまま返事をしていた。
 きっと今日限りで会うことはないんだろうけど、それを少し残念に思うぐらいに相野谷さんとの会話が楽しくて仕方がなかった。
 ちゃんと自分の言葉が通じるって嬉しい。
「ハハッ、おもしろい子だね。糀谷先生のお子さんってちょっと想像つかなかったけど、お嬢様って感じじゃなくて助かったよ。褒め言葉じゃなかったらごめんね」
 褒め言葉じゃなかったらなんて言いながらも、相野谷さんの醸し出す空気は優しい。
 私を貶しているわけじゃないって伝わる。
 この人の言葉には嘘がないんだ。
 格好良くて優しくて、女の子たちが相野谷さんを好きにならないはずがない。
「いえ……私はどう頑張っても私にしかなれないので。父も母も千加は千加のままでいいからって言ってくれますし。相野谷さんこそ、医者の娘って期待しませんでしたか?」
「ああ……期待っていうか、今までも散々医者の娘っていう子には会ってきたから、勝手に悪い想像はしてた。全身ブランドで着飾って、食事はホテルのフレンチ。歩くの嫌いだから移動はタクシーってね。だから、キミみたいな子はいなかったな」
 苦笑しながら告げられる言葉は呆れを含んでいた。
 大学病院っていう場所は、教授や准教授の紹介で見合い話が多いと聞く。相野谷さんの立場では簡単に断ることもできないのだろう。
「でも……どうして、うちの父に?」
「正直に言うと、周りからの見合い話を断りたかったから結婚を考えてたんだ。仕事以外のところで騒がれるのに辟易してしまって。糀谷先生は先輩だけど、そういうこと愚痴れる相手って言うのかな。周りがライバルだらけの中で唯一信頼できる先生だからさ。でも、糀谷先生にうちの娘と会ってみないかなんて言われた時はほんと驚いたんだよ。そんなこと言う人じゃないから」
「すみません父が……困らせてしまいましたよね」
「最初はね。でも、初めて見合いに来てよかったって思ったよ」
「え……?」
 どういう意味だろう。
 私の心を丸ごと掴むような微笑みを向けられてしまっては、もうそれ以上踏み込んで聞くことはできなかった。
「じゃあ、そろそろ行こうか。屋上庭園」
 当たり前のように自然に手を差し出されて、私も手を伸ばす。私の手を包む感覚は、力強く優しい。
 冷たそうに見えた彼の手のひらはかなり熱い。
 私の熱と混ざり合って溶けているみたいに、繋いだ手の境目が汗ばんだ。

 ホテルの屋上にある庭園は四季折々の花が植えてあるらしく、思っていたよりも壮大で美しかった。
 池が作られその上に橋がかかっている。橋の上から見下ろすと、何匹もの鯉が泳いでいて、ここが一瞬屋上であることを忘れてしまいそうになる。
「視界を遮るものが何もなくて、綺麗ですね」
 ぼんやりと空と緑の境界線を見ながら呟いた。
「そうだね。このホテルは学会で来たことがあるけど、屋上に庭園があるなんて知らなかったよ」
 都会のビルの上に作られたとは思えない幻想的な雰囲気に圧倒される。
 コンビニ袋を持っているのなんて私たちだけかと思っていたが、ベンチに座ってお弁当を広げるカップルが多い。

作品詳細

関連記事一覧

テキストのコピーはできません。