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【5話】お見合い相手はスパダリ系ドクターでした!

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 鏡の前でにらめっこ。
 人生初のお見合いだ。何を着ていけばいいかと悩み続けて小一時間。
 唯一持っている成人の祝いに買ってもらったブランドのドレスで行こうかと思ったけれど、なんだか結婚する気満々みたいでイヤだ。
 ここは無難なクリーム色のワンピースでいいかと、着慣れた服に持ち慣れた鞄を手にする。さすがにホテルへ行くのにスニーカーはない。仕方なく、履きなれないヒールにした。
 先方とは、車で数十分行ったところにあるホテルのティーラウンジで会うことになっていた。
 お父さんもお母さんも仕事は休みのはずなのに、紹介だけ済んだら俺たちは帰るから、なんて冷たいことを言う。
 ずっと忙しく夫婦二人きりの時間もあまり持てなかった二人だから、恋人としての時間を取り戻すかのように休みの日は二人きりで出かけることが多くなった。そんな両親を見ていると、私は愛されて生まれてきたんだって嬉しくなるからいいんだけど、口下手な私を置いて帰るなんて薄情者ともちょっと思う。
「千加、そろそろ行くぞ」
「あ、はい」
 お父さんの運転する車に乗り込んで、家を後にする。
 窓を開けると、暖かく心地よい風が車内に吹き込んだ。
 休日だからか、街には若いカップルや子連れの家族が多くいて、皆一様に楽しそうな時間を過ごしている。
 私も、あの中の一人だった。
 修ちゃんといると楽しかった。
 髪を撫でられたり抱きしめられたりするのは好き。
 同じ職場だからか、共通の話ができることが修ちゃんは嬉しいみたいだった。
 たまに愚痴もあったけど、最後まで話を聞くと愚痴ってごめんなって優しく頭をポンポンする。
 どうしてそれだけじゃダメなんだろう。
 私みたいに、エッチが嫌いって人だってきっといる。
 彼から陰口のように言われた言葉は、私をまだ立ち直らせてはくれない。

 目の前に立つ長身の男を見上げて、思わず息を呑む。
 一言で言うと、お母さんとまったく同じ感想だ。
 背が高くて俳優みたい。
 私の頭がちょうど彼の胸あたりにくるから、百八十近い身長だ。
 二重まぶたを細めて笑った顔が妙に甘ったるいし、整った眉に男らしい鼻筋、すべてのパーツが完璧。顔の細部にわたって美しく、失礼とは思いながらも見つめ続けてしまう。
 きっちり整えられているわけじゃないのに、七三でわけられた髪は自然な茶色でよく似合っていた。見せ方を知ってる、そんな感じ。
 スーツ姿がこれだけ似合うんだから、きっと白衣はそれ以上だろう。患者さんや看護師さん、きっと同僚の女性医師にまでモテるに違いない。
 私は面食いなわけじゃないけど、人並みに綺麗な顔立ちには惹かれる。
 でもそれは、恋人に求める条件ではなくて、芸能人を見ているような感覚。だって、もし付きあったりしたら浮気しないかって心配ばかりしてしまいそう。
 だから、無理だなって一瞬で思った。
 私がどうってよりも、この人が私を好きになることはないだろう。
 そう思ったら、緊張感も幾分か和らいだ。
「甘いものは好きですか?」
 顔だけじゃなく、声も格好いい。
 ぼんやりと相野谷さんの言葉を反芻しながら見惚れていると、千加さんと声がかけられた。
「ごめんなさいっ……私、ちょっと反応遅くて。ケーキ好きです」
 あなたの声と顔に見惚れてましたとは言えない。
 慌てて取り繕っても、初対面で人の話を聞いていないとか最悪だ。
 せっかくお父さんが紹介してくれたけど、お見合いは上手くいきそうにない。夫婦二人のデートを楽しんでいるであろうお父さんたちに、心の中だけでごめんなさいと謝った。
「いえ。じゃあ、何か頼みましょうか?」
 メニューを開きどうぞと差し出される。そういえば、用意をするのに手間取って昼食をほとんど食べていなかった。
 ケーキもいいが、今はおにぎりとか焼きそばとか炭水化物が食べたい。
 それに今日は天気もいい。どうせ断られるなら、芸能人みたいに格好いい人とデートしたっていう思い出くらい作っておいてもいいかもしれない。
「あ、えと……」
「はい」
 あれと、なんだかいつもと違うことに気づく。
 口下手な私が相野谷さんとは普通に話せる。
 たぶんそれは、相野谷さんが苛立つこともなく私の言葉を待ってくれているからだろう。お父さんとお母さんみたいに。

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