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【3話】お見合い相手はスパダリ系ドクターでした!

作品詳細

 私の両親は開業医をしている。
 昔は大学病院に勤務する医師だったけれど、今は実家を改装し糀谷小児科を夫婦で営んでいた。
 大学病院を辞めたのは数年前で、歳も歳だしあまりに忙しそうに過ごす両親を随分と心配したから、朝と夜ともに食事ができることに安堵したものだ。
 医者の両親の元に育ったのに、どうして医者にならなかったのかって聞かれることが多いけど、残念ながら私は両親のように利他主義ではなかったし、勉強するよりも針と糸を持って趣味に没頭している方が楽しかったんだ。
 それに、特に医者を目指せと言われたこともない。
 小さい頃から家族三人が揃うのは朝食の時間だけだった。
 忙しくて私に構ってあげられないといつも申し訳なさそうにしていた両親だけど、朝の時間だけはゆっくりと話をしようという習慣があった。
 どれだけ忙しくても、朝食だけは一緒に。
 それは、大学病院を辞めて時間に余裕ができても変わらない。
「千加、仕事はどう? 最近ちょっと元気がないんじゃない?」
 朝食を食べていたお母さんが心配げな面持ちで口を開く。
 私は口数が少ない分、思っていることが顔にでやすいらしい。
 だから、ここ数日落ち込んでいるのもとっくに知られているとは思っていた。それでも何も言わずにいてくれたけど、さすがに何日も続けば口に出さずにはいられなかったみたい。
 心配してくれるのは、嬉しいんだけど。
 こんなこと言えるはずもない──身体の相性が悪くて十年も付きあってた恋人に振られた、なんて。
「彼氏とケンカでもしたの?」
 黙っていると、振られたくない話題へと移ってしまった。
 お母さんたちに紹介したことはなかったけれど、私に高校卒業と同時に初めての彼氏ができたことも、その彼と十年付きあいが続いていたことも知られている。
 その時の様子をお母さんは〝千加がポヤポヤしながら帰ってきたから〟なんて言う。
 彼氏ができた、なんて一言も言わなかったのに、すぐに気づかれた。
 大学病院の勤務は、ありていに言っても労働基準法に違反してるんじゃないのって言いたくなるぐらいの激務で、私は他の子に比べれば親との時間は少なかったと思う。
 けれど、表情一つで何かあったって察してくれるお母さんたちのこと、私は大好きだ。
 話す時間はなかったけど、嬉しい時も悲しい時も、私を理解してくれていたから。
 だから、こんな時言い逃れできないのは百も承知で。
「もしかして、別れた?」
 言い当てられて黙っちゃうのもいつものこと。
「千加は誤解されやすいからな」
 食事を終えたお父さんが諦め交じりにため息をつきながら、私の肩を慰めるようにポンと叩いた。
「こんなに可愛い千加と別れるなんて~もったいないわね。その彼」
 何も言っていないのに、お父さんとお母さんの中では私が彼に振られたことは決定事項だ。
 まあ、事実だから否定もできない。
「可愛くないよ……私」
 顔だけは可愛い──なんて、褒め言葉じゃない。
 エッチの時も、もっと可愛くできていたらよかったのかな。
 友達にずっと言われてきた。千加ってちゃんと化粧したらものすごく美人なのに、化粧っ気ないし髪型も地味だよね。あんまり喋らないけど、彼氏とはちゃんと喋ってるのって。
 実は洋服を作ったりリメイクしたりするのが好きで、ジーンズを加工して鞄にするのもお手の物だ。ずっと昔、それこそ修ちゃんと出会う前からの趣味だ。
 本当はねと友達に話せなかったのは、理解してもらうことは難しいから。
 化粧して、女の子らしく髪を伸ばしてアイロンで巻いてる時間があるなら、ハサミに針と糸を持っていたい。
 だから髪は朝起きてそのままブローの必要ないボブカット。髪が跳ねていたら、シュシュでまとめて終わり。
 きっと、そんな私は友達からしたら、オタクっぽくて平凡な女なんだろう。
 でも、修ちゃんだけはこんな私でもいいって言ってくれた。
 裁縫が趣味の女の子って可愛いと思うよって。
 すごく、嬉しかったのに。
 つまらなくて、おしゃれでもなくて……エッチも下手だから振られた。
 振られた理由が衝撃過ぎたのか、修ちゃんと別れて寂しいとか悲しいとか、不思議とそういう気持ちは起きない。
 何度も思い出しては、気分が重く沈んでいく。
 毎日ため息ばかり。
 修ちゃんと同じ会社じゃなかったら知らずに済んだのに、自分で決めて選んだ道だけに後悔先に立たずだ。
「なあ、千加。もしよかったら、お見合いしてみないか?」
 突然脈絡なく告げられて唖然とする。
 今、恋人と別れたって話をしてたんだけどな。
 お父さん何を言いだすの。

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