【最終話】クールで口下手な専務の溺愛プロポーズ

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「あれって……専務だったんですか?」
 最終面接で、記憶に残っている出来事はそれしかない。
 ロビーで見かけた男性のことはぼんやりとしか思い出せなかったし、その後の忙しさですっかり忘れていた。
 しかし、常日頃から東馬のそばで仕事ぶりを見ている成美としては違うと否定はできない。
 朝食、昼食、夕食を抜くことなど日常茶飯事で、ブラック企業さながらの残業時間。寝不足でフラフラしていることもしょっちゅうだ。
 ただ、それを成美以外の部下に見られないようにと、いつも毅然とした態度を崩すことはなかった。それが成美の知る上司としての東馬だ。
「やっぱり覚えてなかったな。あんな場所で醜態を晒すなど忘れていて欲しかったが、本当に忘れられると寂しいものだ。君が秘書課に配属されてすぐに食事に誘っただろう? 礼のつもりだったんだが、君は俺の誘いを即行で断ったな」
 そういえばそんなこともあったかもしれない。東馬の下についてから勉強することが多くて余裕がなく、ちょうど下の弟が思春期で家の中が落ち着かなかった。
 社交辞令で誘われているのだと思っていたし、お茶の礼だなんて思いもしなかったのだ。
「どうして言ってくれなかったんですか?」
「そんなこと言えるはずがないだろう。相手はすっかり忘れているというのに、あの時助けてもらった者だと話を振れるか? それでも思い出さなかったら? ただでさえ、見た目が怖いと遠巻きにされることが多いんだ。たったそれだけのことで一目惚れしたと言っても、受け入れてもらえるとはとてもじゃないが思えなかった」
「一目惚れ……」
「ああ、いや……気になりはしたんだが、最初は俺の正体を知っていて、面接に有利になるとでも思ったんだと誤解していた。でも君は毎日一緒に仕事をしていても、あの時のことには触れなかった。それどころか母親かと言いたくなるぐらい口うるさいときた。食事を摂れ、休憩を取れとね。そのうち君がいないと心が休まらなくなった。ただ気になる存在が、愛情へと変わるのにそう時間はかからなかったさ」
「口うるさいところを好きなってくれたんですか?」
 そこまで口うるさくしていたつもりはまったくない。ただ、時々弟たちと触れ合っているような感覚に陥り世話を焼いてしまうだけだ。
 東馬にとっての腕時計は会議の時間を確認するためのものでしかなく、定時などあってないようなものだ。自分は深夜まで残業するくせに、決して成美に残業を強いることはなかった。だからもっと頼って欲しいと思うようになったのだ。
「どこをと聞かれると困るな。君の嫌いなところなど一つもない。俺以外の男に笑いかけていると、相手の男をどうにかしたくはなるが……それでも君の笑顔は好きだ。それを見られるのは嬉しい」
 私は一体誰と話しているの──そう目の前の男に聞きたくなってしまうほど甘い言葉に、頬がかっと熱くなる。胸がくすぐったくて温かい。
「君と同じように、君の家族も大切にすると誓う。だから、ずっと俺のそばにいて欲しい」
 無表情なんかではなかった。眼鏡の奥の瞳は、たしかに好きだ、愛してると伝えてくれている。
 ベッドが東馬の重みで沈み、手が重ねられた。
「はい……私もずっと専務のことが大好きです」
 成美が言葉を返すと、東馬の目が優しげに細まり幸福感でいっぱいの笑顔を向けられた。

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