【34話】クールで口下手な専務の溺愛プロポーズ

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 歩く人々の波に飲まれて成美も会社を後にしようとすると、ロビーのソファーにぐったりと背中をもたれかからせている男性の姿を見つけた。
(この会社の人かな……?)
 少人数の打ち合わせにも使われるのか、何人かの人が一人がけ用のソファーに向かい合わせで座りながら話をしているのが見える。しかし、男性は一人で誰かを待っている風でもなければ、ここで仕事をしている風でもない。
(具合悪そう。誰かに言った方がいいかも)
 キョロキョロと辺りを見回しても、皆忙しそうで男性に気づく様子はない。
 この会社の人間でもないのに差し出がましいだろうかと思いつつ、成美は男性に近寄って行った。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「……なんだ?」
 成美が声をかけると、眉間に深い皺を寄せた男性がうっすらと目を開けた。
 ずいぶんと目つきが悪い。成美は視線の鋭さにたじろいだ。
 しかし、よく見れば男性の額には暑くもないのに脂汗が浮き、吐き出す息は苦しそうだ。
 ジャケットに会社のバッジが付けられているため、やはりこの会社の社員のようだ。
「顔色が悪いです……誰か、人を呼びましょうか?」
「いいから放っておけ。君は就活生だろう? 俺にかまっているより、やらなければならないことがたくさんあるはずだ」
「就活生だからって具合の悪い人を放っては行けないですよ。あ……これ、まだ私口つけてないので飲んでください」
 未開封のペットボトルを手渡してもいらないと言われそうで、成美はペットボトルのキャップを開けてから、お茶がこぼれないよう男性の手にしっかりと握らせた。
「汗がすごいですから、とりあえず飲んでください」
 男性は喉が渇いていたのか、無言のままペットボトルのお茶を飲み干した。低い声で「ありがとう」と聞こえた。
「ちょっと待っててください」
「どこへ行く?」
 成美が立ち上がると男性に手を取られた。
「あ……受付へ。この会社の人ですよね。誰か呼んでもらおうかと」
「いい。最近仕事が忙しくて睡眠不足だっただけだ。朝から何も食べてなかったから、立ちくらみがして……助かったよ」
 不愛想な言い方ではあったが、本当に怖い人ではなさそうだ。
 眉間の皺を指の関節でグリグリと押している。もしかしたら頭が痛いのかもしれない。
 睡眠不足の上に食事も抜いていたら、頭痛もするだろうしフラつきもするだろう。
「いえ。ちゃんと休んでからお仕事に戻ってくださいね」
「君の名前は何という? 礼をさせてくれないか」
「真鍋成美と申します。でも……今日最終面接だったので、運が良ければまたお会いできるかもしれませんけど、ダメだったらお礼のことは忘れてください。次に会う時は万全な体調でお願いしますね」
 髪はボサボサで顔色は青白い。
 それに眼鏡の奥の瞳が鋭過ぎて怖くもあった。
 それなのに成美には男性がふと可愛く思えて、思わず頬に笑みが浮かんだ。
 突然成美が笑ったからだろう。目つきは悪いまま男性が驚きに目を見開いた。就活生の割に図々しいとでも思われたのかもしれない。
 面接の返事待ちの状態でここまで強気に出られたのは、やっと終わったという開放感からだろうか。
 名前も知らぬ男性の助けになれただけでも、ここに来た意味はあったと思いたかった。

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