【33話】クールで口下手な専務の溺愛プロポーズ

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 頬を寄せて東馬の手の甲に摺り寄せる。今はこれだけで我慢しようと目を瞑ると、ベッドが沈み東馬に唇を塞がれた。
「んんっ……せ、んむ」
「君は誘い方も可愛い」
「誘ってな……っ、仕事……遅れちゃいま、ん……はぁっ」
 チュッチュッと唇を触れ合わせるだけのキスは徐々に激しさを増していく。
「今日は口うるさい秘書がいないから、少しくらい遅刻してもかまわないだろう?」
「……っ、それって私のことですか?」
 あんなに必死に頑張っていたつもりなのに、口うるさいと思われていたとは。さすがにショックを隠しきれないでいると、下唇を甘噛みされて違うと東馬が首を振った。
「君はやたらと俺の身体を心配するからな。そういうところは初めて会った時から変わっていない。そんな君だから好きになったんだ。言い方が悪かった……初めて君を抱いて浮かれていたな」
(専務が浮かれていた──? 私を抱いて?)
 東馬の言葉に成美の胸が喜びでいっぱいになった。
 そんな素振りは微塵も感じないのに。
 愛しているとは告げられたが、それほどに好きでいてくれたのか。
 一体成美のどこを好きになってくれたのだろう。入社以来、ずっと嫌われているとすら思っていたのに。
「初めて会った時って……入社式ですか?」
 成美が覚えている東馬の最初の記憶は、入社式でやたらと不機嫌そうなイケメンがいるな、だ。その後秘書課に配属され、まさかそのイケメンの下に就くとは思ってもみなかったが。
 首を傾げて聞くと、東馬の瞳が寂しそうに揺れた。
「君の最終面接だよ」
「最終面接……?」
「と言っても、社長と人事部長、ほかの役員に任せていたから、俺はその場にはいなかったが。君が帰る時にロビーで会ったのを覚えてないか?」
 最終面接──と言われて三年も前のことを思い出すのはいささか大変ではあったが、記憶を巡らすと頭の片隅に何か引っかかるものがあった。

「……ありがとうございました。失礼いたします」
 最終面接に特に手ごたえも感じないまま不安だけが残った。成美は肩を落として面接会場である会議室を後にする。
 このまま就職できなければ、どうやって弟たちを育てていけばいいだろう。
 すぐに生活に困窮することはないとは言っても、両親が残してくれた保険金はそう高額ではない。
 私立大学の学費を支払ってしまえば、あとは日々の生活費が残るだけだ。
 大学を辞めて働くことも考えたが、せっかくここまで頑張ったのだからと新見の後押しもあって留まることにした。辞めたとしても働くあてがあるわけではなかったし、その選択に後悔はない。
(あとは就職が決まってくれればなぁ……)
 安定した職を求めて何が悪い。
 働く理由が家族のためで何が悪い。
 将来的に何を成したいか──将来よりも成美にとっては家族のために〝今〟どうするかだった。そう答えたら面接官たちは呆気に取られていたが、その場にいた誰よりも働きたい想いは強かった。
 また不採用通知が届くかも、そう覚悟をしていてもやはり数多くの会社に〝必要ない〟と言われるのは辛い。
(ここがダメでも次って考えないとなぁ)
 成美と同じリクルートスーツに身を包んだ学生たちが、皆一様に厳しい顔をしながらビルを出ていく。

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