【20話】クールで口下手な専務の溺愛プロポーズ

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 紺のジャケットをロッカーに入れて待合室でスタッフからの呼び出しを待つ間、成美の胸は緊張と不安に苛まれていた。
 時計型の防犯ブザーに触れたり、足を組み替えたりとずっと落ち着かない動作を繰り返している。
 寒くもないのに指先は緊張で冷え切っていた。
(今日のお客さんは専務じゃないんだから……)
 コンコンとドアをノックする音に大げさなほど肩が震えた。
「成美ちゃん、お願い。えーと今日のお客さんは漫画喫茶待ち合わせ。もう部屋に入ってるから案内するよ」
「あ、はいっ」
 椅子から勢いよく立ち上がろうとして前のめりにバランスを崩した。慌てて椅子を掴もうとしたが、椅子の背もたれに腕をぶつけてしまい成美は膝から崩れ落ちた。
「ちょっ……大丈夫っ?」
「すみませんっ。大丈夫です」
 スタッフに手を貸してもらい立ち上がる。正直強打した腕は痛むが、これから仕事なのだ。休ませてくださいとは言えない。
 落ち着け落ち着けと心の中で繰り返し、先を歩くスタッフを追った。漫画喫茶に着くと中を簡単に案内された。
 壁一面に漫画が置かれていて、部屋は完全な個室になっているようだ。部屋からは客の話し声も聞こえてはこない。きっと二人きりの空間を演出するために防音になっているのだろう。
「ドリンクは自由だから部屋に入る前に持っていったらいいよ。いつも来てるお客さんじゃないから緊張してるでしょ。頑張って」
 スタッフに肩を叩かれて、成美は言われたとおりにまずドリンクコーナーへと行った。
 早く飲み物を選んで客のところへ行った方がいいのはわかっているが、どうしても足が進まない。ダメだとわかっていても、なるべく客と一緒にいる時間を少なくしたかった。
(早く、行かないと……仕事なのに)
 夕飯もまだのため、お腹に溜まりそうな野菜ジュースを選んで部屋へと向かう。気を抜くとため息が漏れそうになって、唇をぎゅっと噛んだ。
「お待たせしました。成美です」
 ノックをして相手の返事を待つ。すぐにどうぞと中から男性の声が聞こえて、成美は恐る恐るドアを開けた。
 俯いたまま中へ足を一歩踏み入れ、よろしくお願いしますと頭を下げた。怖くて男性の顔が見られなかった。
「写真で見てたとおりだ。可愛いね」
「ありがとうございます」
 いつまでも目線を下げているわけにもいかず、頭を上げて男性の顔を見ると、中肉中背のいたって普通のサラリーマンに見えた。パッと見にはおかしなところはなさそうだ。
 おいでと手を差し出されマニュアルに沿って成美も手を差し出した。客の左手の薬指にはプラチナのリングが光っていた。
(結婚してるのに、ほかの人とデートしたいんだ)
 男性客の気が知れない。どうして家に帰れば大切な人がいるのに、ほかの誰かと過ごしたいと思うのだろう。
(私は好きな人としかデートしたくないな)
「隣座って」
「は、はい」
 クッション型のラブソファーは、大人二人が肩を寄せ合っても狭いぐらいの幅しかない。つまり相当密着しないとならないのだ。
 成美はなるべく肩が触れ合わないよう端に腰かけた。
「へぇ、けっこう腰細いんだね。胸が大きい子ってふくよかな子が多いじゃん? 成美ちゃんは写真で見るよりスタイルがいいね」
 腰回りを確認するように背中からウエストまでを男性に撫でられて、寒くもないのに身体中が戦慄いた。
(この人と恋人同士の時間を過ごすなんて……)

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