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2020
01.10

【16話】クールで口下手な専務の溺愛プロポーズ

毎日無料

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「今夜、続きするって言ったじゃないですか」
「それは……」
 めずらしく東馬が言葉に詰まる。一度発してしまった言葉は取り返せない、そう思うと成美に怖いものはなかった。
「やっぱり……初めてなのにあんな風に乱れるのなんておかしかったからですか?」
「初めてだったのか」
 呆然としながらもどことなく嬉しげな東馬の様子に、どれほど淫乱だと思われていたのだと怒りすら芽生えた。仕事と家のことで恋人なんて〝いつか〟としか考えられなかったというのに。
「当たり前ですっ! だって恋人なんて作ってる暇なかったんですよ。家のことだって忙しいし、これでもかってぐらい仕事できる上司がそばにいるんです。ちょっとでも仕事たくさん学びたいって思うに決まってるじゃないですか」
「へえ。君に褒められるのはくすぐったいものだな」
「私……バカみたいじゃないですか。勝手に期待して盛り上がって……」
 東馬のジャケットの袖を掴んだ。拒絶されたらどうしようかと手が震えそうになったが、思いとは裏腹に東馬の手が重なり愛おしげに指が絡められた。
 気づけばピリピリと肌を刺すような空気は鳴りを潜めていた。東馬の手に包まれていると、胸がほっこりと温かくなる。
 もう怒ってないの? と東馬を仰ぎ見ると、真っ直ぐな視線が返された。まるで成美を愛おしむような目で見つめられる。
「期待してたのか? でも今日はもうやめておこう。俺の歯止めが利かなそうだし、君が仕事に来られないと困るのは結局俺だからな」
「もしかして、私の身体を心配してくれてるんですか?」
「それ以外の何があると言うんだ」
(好きって言葉は聞けなかったけど……今はそれでもいい)
 多分、それなりに大事にはされている。きっと嫌われているわけではない。それだけ信じられれば十分だ。
 東馬の肩口に顔を埋めればぎゅっと身体を抱き寄せられる。今日ずっと近くにいたからか、東馬のジャケットからは成美と同じ柔軟剤の香りがした。
 成美の気持ちはきっと変わらない。同じ熱量で愛情を返されはしないかもしれないが、それでも東馬のことが好きだ。

 二人は食事を終えてビルの一室に造られた公園へと来ていた。
 ブランコやベンチといった備品まで完璧に揃えられていて、さすがに虫や鳥はいなかったものの効果音で沢の音が流されている。
 東馬と手を繋いで歩いていると、ここがデートクラブであることを忘れてしまいそうになる。
「ここのビルってどういう造りになってるんでしょう? 室内なのに、本当に外にいるみたいですね」
 成美は辺りを見回して感心したように言った。
「そうだな。木や植物もこれだけあると造花には見えない」
「ですよね! 本当のデートみたいでバイトだって忘れちゃいそ……あ」
 成美はしまったと口元を押さえた。東馬とデートができて嬉しいと告白しているみたいだ。
 隣で平然としている東馬を憎らしく思うほどに恥ずかしくて、成美は俯き加減に歩いた。
 東馬が気づくか気づかないか程度の力を繋いだ手のひらに込めた。こうして手のひらから感情を伝えることができたらいいのに。
(だって……好きって気づいたら、もう今までみたいになんて見られない)
 繋がれた手が汗ばんではいないか、声が震えていないか、そんなことばかり考えてしまう。焦っておかしなことばかり言ってしまうのだ。

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