【27話】国王陛下の寵愛蜜戯~獰猛な独占欲~

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「セフェリノ?」
「こんな遅くまでお疲れさま」
 足を向ければ、彼はベッドで足をのばして楽にしている。
「夜の散歩、どう?」
「いかないわ。昨日……見られてたみたいだし」
「ああ、夕方に会ったとき、そんなこといってたよ。セフェリノくん、うまくやってお嫁さんにして一緒に国に帰るといいわよ、だって」
 そういってから眠たげにあくびをし、ナディアを手招く。
「今日姉上がきて――ゴードンがいないせいで――僕が相手を」
 あくびをくり返し、セフェリノは自分の横の空いた部分を軽く叩いた。
「ナディアがとなりにいてくれたら、きっとすぐ疲れも癒えると思うんだよね」
「眠るなら、自分の部屋に」
「姉上と顔を合わせてる時間がもったいない、その分もナディアといたいのに……」
 またあくびをしたセフェリノは、そのまま眠ってしまいそうだった。
「ゴードンさんにはご家族のところに立ち寄っていただいてるから、明日か明後日には戻られるんじゃないかしら」
 ゴードンの生真面目な顔を思い出す。おそらく彼なら、奥方のところとはいえ早々に出てきてしまう気がした。
 返事がなく、のぞくとセフェリノは寝息を立てていた。
 そうなると起こすのがしのびない――ナディアは音を立てないように、別室にある浴場に向かった。
 戻ったころには目を覚ましているだろう、そう思っていたが、ナディアが身体を清めて戻ってもセフェリノはすやすやと眠っているままだった。
 起こすべきだろうが、ナディアはそっととなりに身を横たえた。慎重な動きだったとはいえ、セフェリノは起きなかった。
 薄い部屋の明かりのもと、セフェリノの横顔が浮かび上がる。
 陰影の濃い横顔のなか、まつげの長さと鼻梁の高さに目がいった。薄いくちびるにふれてみたくなったが、それはこらえる。
 朝になる前に、ほかの誰の目にも留まらないよう出ていってもらえればそれでいい。ナディア自身、彼がとなりにいることがうれしくなっている。ゆっくり目を閉じると、眠気がやってくる気がした。
 これだけ近いところに他人がいるのに、くつろいだ気分でいられる。すでにセフェリノはナディアにとって特別なひとになっていた。
 ふと気配を感じ、ナディアは重くなりはじめていたまぶたを開けた。
 セフェリノも目を開けている。
「ナディアは本気にしてくれてないかもしれないけど」
 わずかにかすれた声だった。
「僕はきみに本気になってるんだ」
 胸の奥に温かいものがじわりと広がっていく。
 彼にふれたくて手を上げ、どうしていいかわからなくなり――ナディアは彼の胸に手を乗せた。
 ゆっくり上下する胸の感覚だけでも愛おしかった。
「……セフェリノ、どうして女性の格好をしていたの?」
 似合うとか似合わないとか、そういった理由すべてが、身をかわされている気分になるものだった。
「質問料を取ってもいい?」
「……また私、あなたにはぐらかされちゃうの?」
 我ながら悲しげな声だ。
 セフェリノが目をほそめ、胸にあるナディアの手をにぎった。
「僕はね、目くらましなんだ」
「それって、どういう……」
「僕はここ何年か、ずっと姉上のふりをしてたんだ」
 書物で読んだことがある。
 国王などが暗殺者や政敵の目を欺くために、自分にそっくりな人間を用意しておくことがある、と。まさかそういった話か。
「姉上が出かけていきたいときのために、ドレスまであつらえたんだ。姉上は自分の部屋にこもって執務をしたがる――そうまわりは思ってる。だから姉上の部屋やその近くで、わざわざドレスを着た僕が臣下たちにちょっとだけ姿を見せたりしてたんだ……ゴードンも協力してくれて、うまくいってた。そうしてる間に、姉上はお出かけしてる、っていうことだよ」
 なんのために、とナディアは思い、それが顔に出ていたのだろう、セフェリノは笑い出した。
「ナディアは素直だなぁ」
「笑わないで――ミランダさまが出かけたいなら、そうすればいいのに。それもできないの?」
 王家というのはそういうものなのか。
「僕はわりとほいほい出かけていってたんだ。城の近くに馴染みのカフェもあるし、おいしいパンを売ってる店も知ってる――案外城にいなくても、気にされないものだよ」
 横になったままだと、うまく首をかしげることもできない。
「そういうときは、ちゃんと護衛を連れていってる。なによりレオラ王国は治安がいい。その賜物だ」
「でも、放火事件が……」
「由々しき事態だよ、ほんと」
 セフェリノの短くなった髪に、どうしてもナディアの目は吸い寄せられていく。
 半身を起こしたセフェリノが、ナディアの胸元に頭を預けてきた。当然のようにナディアは彼の頭を抱きしめ、髪の毛を手櫛で梳く。
 短くなったところで、艶のあるやわらかい髪質であるところは変わらない。いつまでも梳いていたくなるさわり心地は、サロンではじめてふれたときに感動さえ覚えたものだ。
「ミランダさまが出かけるって、あなたみたいに……カフェにいったりパンを食べにいくわけじゃなさそうね」
 鼻にかかった笑い声が聞こえる。セフェリノの吐息で胸元が熱い。
「姉上は逢い引きに出かけてたんだ」
「そ……そうなの?」
 予想してしかるべきだったが、聞くまでナディアはまったく思いついていなかった。
「それがばれたりしないように、姉上が出かけてる間は僕がドレスを着ておとなしく仕事をしてた」
 確かに替え玉を用意したいことかもしれないが、それにしても用心深いことだ。
「いまはもう、そんなことできないわね」
 短い髪では、すぐばれてしまいそうだ。
「まあね。ちょくちょく女装して出かけてたし、姉上も最近おとなしくて、と思ってたら、今度その相手と結婚することになったんだ。おめでたいだろう?」
「それはよかったじゃない」
 成就したなら、それは喜ばしい――なのに、セフェリノはナディアの胸に顔を押し当てたままため息をついた。

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