【15話】国王陛下の寵愛蜜戯~獰猛な独占欲~

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 いくらセフェリノがどうしているのか尋ねても、いずれわかります、としか答えてくれない。
 はぐらかされてもナディアが質問をくり返すためなのか、ゴードンは目を閉じてしまっている。眠ってはいないだろうが、質問をするどころではなかった。
 空腹ではなくのどのかわきが強くなったころ、馬車は速度を落としはじめた。
「到着いたしました」
 声と同時に馬車は停まり、ナディアは紙包みをゴードンに返した。
 到着したのは、物々しさのない、手入れのいき届いた屋敷だった。
 とっぷりと陽が暮れているが、明るいときに到着していたら景観を楽しめたのではないか。そう思うとナディアは残念になっていた。
 使用人の案内なしに、ゴードンは屋敷の奥へと進んでいく。使用人たちもゴードンを見知っているのだろう、進行を阻もうとするものはいなかった。
 彼が進んだのは、本棟ではなく別棟だった。
 アルカンタス家の屋敷と比べながら、こちらの棟は客間が集められているのか、と予想する。
 通された広い部屋は、やはり誰かの私室ではなく、整えられた客間に映った。
「ナディアさまには、こちらにご滞在いただきます」
「ここに?」
「必要なものがあれば、なんなりとお申しつけください。焼き菓子が減っていませんが、食事はどうされますか」
「待ってください、きちんと説明を」
「いたします。適任のものがおりますから、そちらの到着をお待ちください。どうも……私はそういった説明が不得手ですので」
「まあ……それは、まあ」
 否定ができないナディアは、苦し紛れに室内を見回した。
「こちらに、というのはともかく、そのことは父には話していらっしゃるんですよね」
「はい。アルカンタス卿もべつの屋敷にご滞在いただきます」
「……なにが起きているのですか?」
 屋敷から父子を離すということが、そもそもおかしい。
 車中でおこなわれると思っていた説明はなく、今度はべつのものの到着を待てという。
 ナディアは部屋の窓を見た。
 一階の部屋である。入ってきてからの方向を考えれば、窓から飛び出して走れば屋敷から出るのも可能そうだ――それからどうすればいいか思いついていないが。
「そういう目をなさらないでください」
 ゴードンの声が大きくなった。
「ナディアさまもアルカンタス卿も、保護のためにこちらにきていただくということで」
「保護のためという……ことで? ことで、ってどういう」
 ゴードンが顔をしかめる。それがアルカンタス家の執事であるゴードンが弱ったときに見せる表情そっくりで、ナディアから彼に突っかかるような気持ちが萎えていった。
「いちおう……ですね、放火の被害者となっていますので、保護するという」
「それなら先に話せたはずですよね。なぜほかの方の到着を待てと? 父と離れて、というのはどういうことです?」
 萎えていても、口は止まらない。
「いえ、ですから、細々と説明するよりも、きちんと状況が把握できるほうが」
「馬車で私がしていた質問を、すべて黙殺していらした方の言葉とは思えません。以前にも首都ナルトラムで放火事件があったと聞いています。そちらは明確な被害に遭われた方がいらしたんですか? 全員保護をするというなら、私のサロンにいらしていた方や、働いている全員の保護を求めなければなりません」
 これ以上ないほどゴードンは顔をしかめている。セフェリノほどではないものの、彼も整った顔をしているのだ。しかめ面になっていてはもったいない。
「――陛下が被害を受けたことが原因です」
 吐き出された言葉に、ナディアは口をつぐんだ。
「ひっそり出かけて、あの日までうまくやっていたんです。私も協力していましたし――まさか女装をしているなんて、誰も思っていなかったのでしょう」
 あまりにも顔をしかめ過ぎて、まるでゴードンは泣き出したいのをこらえているようだった。
「被害に遭って戻れば、もう隠しておけません。陛下の周囲にいるものは、全員今回のことを知っています。とくに大臣が怒っていて、彼は二度と陛下に勝手な外出などさせないと息巻いている」
「……それは、同情します」
「あなただって共犯扱いされているんですよ!」
「私が!?」
 驚きのあまり、大きな声が出てしまっていた。
「当たり前でしょう! 大臣たちは頭を抱えてますよ! 執務を王女に押しつけてまで、陛下が恋人に会いに出かけていっていたなんて!」
 恋人、というのが自分を指しているのは理解できたが、ナディアはおとなしくうなずけない。
「ま、待って……待って、誤解が」
「これまで私が逢い引きの手伝いをしてきたんです、どうかナディアさまにも、私に協力してここにおとなしく滞在していただきたい!」
「待ってってば! ずっとサロンにきてたゴードンさんならわかるでしょう!」
「わかりますよ! 陛下はなにをするでもなく、あなたのことを見てへらへらしていたんですから!」
 自分が関係していないところで、なにやらおかしなことになっている。
 ひどい疲れを感じて部屋の長椅子にすわりこむと、ゴードンは壁に背中を預けてため息をついた。
 深い疲れを感じさせるため息に、ナディアは彼があわれになった。
 事実関係はともかくとして、彼は城で責められる立場だったのではないか。そこにナディアはおらず、どんなやり取りがあったか不明だ。
「滞在の目的は……セフェリノを――陛下を外出させないことなんですか?」
 疑問に感じるところを口にすると、返答はゴードンではなくべつのところから聞こえてきた。
「なんにせよ、外出していられないんだけどね」
 ――セフェリノの声だった。
 奥の部屋から足音がして、人影が現れた。
「ごめんごめん、ナディアたちの到着を待ってたら眠くなって」
 寝癖がついている。彼は眠っていたのだろう、おそらく奥は寝室だ。
「……セフェリノ」
 ナディアは立ち上がっていた。
 いつもと違い女装はしていないが、セフェリノに間違いがない。
 満面の笑みでナディアの前に立ち、仰々しい所作で両手を広げた。
「見てもらうのが一番はやいかと思って」
 ひどいめまいがする。
 ――セフェリノの髪は短くなっていた。

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