• HOME
  • 毎日無料
  • 【6話】お薬の時間です!~狼騎士隊長の担当看護師に任命されました~

【6話】お薬の時間です!~狼騎士隊長の担当看護師に任命されました~

作品詳細

 獣人の男の太い腕にそっと触れる。僅かに身動いたものの、目はニーナを見つめたままだ。
 血管を確認し、素早く消毒液を含ませたガーゼで腕を消毒し、皮膚を伸ばし角度に気をつけて針を刺し入れ、ゆっくり薬液を注入する。
「ちょっとチクッとします。……はい。大丈夫です」
 獣人の男は痛みに強いのか、針を刺した時も抜く時も特に反応はなく、ただ大きな男らしい喉仏が上下しただけだった。
(よし! 終わった)
 慎重に注射針をトレイに戻してサイドボードの上に置いてから、ニーナはようやく人心地ついた。
 だが獣人の男の両腕はまとめて鉄輪に繋がれたままなので、しばらくニーナが注射した場所をガーゼで押さえる事にする。
 ……しかしぱたぱたと忙しなく動く耳が、腕に当たってどうにもくすぐったい。
(ふわふわだわ……じゃなくて! 身体も熱いし、氷嚢用意してもらった方がいいんじゃないかしら。あ、でも発熱を無理矢理止めるのも……)
 くすぐったさを堪えつつ、様子を観察する事五分。脂汗は少しずつ引いており、副作用の兆候は見られない。
 ニーナは押さえていたガーゼを離し、身体を離そうとしたのだが、しかしそれまで大人しくしていた獣人の男は――何を思ったのか、逆にずいっと伸び上がり体重をかけてきた。
「えっ?」
 咄嗟にニーナが獣人の男の頭を抱え込んだせいで、まるで膝枕しているような格好になってしまった。何か異変があったのかと男の顔色を見る。……が、トロンとした目は先ほどとあまり変化はない。
 しかし、男の動きはそこで終わらなかった。ぐるると喉を鳴らすと、腕も足を結ばれたままだというのに、ニーナの身体に尚も乗り上げてきたのだ。
「っきゃあ!?」
 腕の鎖はいつのまにか切れており、当然ながら今度こそ支えられずニーナはぽすんっとシーツの上に倒されてしまう。そして今度こそ、その上に獣人の男がのしかかってきた。
「きゃ……っあの、っちょっと……!」
 この体勢はいくらなんでもマズイ。
 荒くなった息が耳に近くて、背中がゾワゾワしてしまう。そういえばヨーゼフもよくこんな風に飛びかかってジャレてきたっけ……いや、これは明らかに襲われているのでは。しかし鎖は切れているが両手は拘束されたままである。男性とつき合った事のないニーナにしてみれば、何をどうするのか見当もつかないのだが。
 のしかかられつつも、ニーナが攻撃に転じなかったのは、彼が触れ合った場所からピクリとも動こうとしないからだ。……もしや単純にバランスを崩して倒れただけなのかもしれない。が、しかし、色っぽい方向とは別の所でニーナは呻いた。
「重い……っ」
 体重でいえばニーナの二倍はあるであろう巨体が上に乗っているのだ。重くないわけがない。特に胸に思いきり体重がかかっており、呼吸すら難しい。
 と、突然その重さがなくなった。
 どうやらニーナの声が届いたらしく獣人の男が身体をずらし、体重を逃がしてくれたようだ。
 ……どうやらニーナが心配したような危害を加える気はないらしい。しかし。
(やっぱり自分では起きられないの?)
 それならばニーナが動くしかない。二人の身体の間に隙間が空いたので、なんとか抜け出せそうだ。
 這うようにベッドの端へ移動しようとすると、絡みつくような視線とぶつかり、男の瞳が熱を孕んで切なげに細められた。汗で銀髪が張りつき上気した肌。苦しげな吐息は滴るような色気を放ち、部屋の空気までピンク色になったようだ。普段そういったものに縁のないニーナですら肌が粟立つほどの艶っぽさだった。
(うっわぁああ……!)
 思わず心の中で呻いてしまう。
 美形と発熱を掛け合わせるとこうも危険物になるとは……! 医学書にも載せて欲しい程の危険反応である。
 ニーナが欲求不満かつ手練れの女性ならば、間違いなくムラムラして襲いかかっていただろう。それほど凄絶な色気が彼にはあった。
 とりあえず避難! と混乱する頭の中で逃げ道を探ったその時、ばぁんっとけたたましい音を響かせ寝室の扉が開いた。
 そこから雪崩のように入ってきたのは、今までどこにいたのかと驚く人数の騎士達だった。皆一様に個性豊かな耳と尻尾を持っており、これほどの数の獣人をいっぺんに見た事がなかったニーナは一瞬、呆気に取られて反応が遅れてしまった。
 彼らは獣人の男にのしかかられているニーナを見て、ぶわっと尻尾を膨らませた。
「げっ! やばい!」
「引き離せ!」
「とりあえず腕押さえ……っいってぇ! 蹴られた!」
 獣人らしい身のこなしで、素早くニーナに覆い被さっていた獣人の男を引き剥がす。勿論突然押さえつけられた事に獣人の男は唸り声を上げて、縛られたままながらも抵抗を見せた。獣人の男の身体が寝台から引き落とされ、長い足が寝台を蹴ると恐ろしい事に、ニーナの身体が一瞬浮いた。
 当然寝台に上がったままだったニーナは思わず悲鳴を上げたのだが――それまで暴れていた獣人の男は、やはり悲鳴が耳に入った途端、ぴたっと抵抗を止めた。
「え?」
 ニーナは誰かに腕を掴まれ、そのまま隣り合う居間へと引っ張られる。寝室の扉は中から閉められ、分厚い扉のおかげであっという間に静寂が戻った。
(な、なんだったんだろう……!)
 一瞬の情報が多すぎる。
 入ってきた大量の獣人の騎士達は、ヤマトが言っていた獣人の同僚なのだろうか。しかし今の今まで気配がなかったというのに、どこから見ていたのか。
(あ……耳が良いんだっけ? 私の悲鳴を聞きつけて来てくれたって事?)
 思いつきだったが、それが一番正解に近いように思えた。それにこっそり見張られていたよりは百倍マシだ。

作品詳細

関連記事一覧

テキストのコピーはできません。