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【26話】お薬の時間です!~狼騎士隊長の担当看護師に任命されました~

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「わぁ……!」
 歓声を上げたニーナに、オズワルドはマスクの奥でくすりと笑う。
「以前君から話を聞いた時に、美味そうだと思っていたんだ」
 そういえば少し前、問われるままに若い女の子に人気らしい、と話した事があった。特に自分が食べたいと言った訳ではなかったが、もしや顔に出ていたのかもしれない。
 膝の上で腕を組み、ニーナに笑いかけるオズワルドの表情は優しい。温かな感情がくすぐったさと共に込み上げてくる。
 マリアのクッキーをお裾分けしたものの、後日尋ねた味の感想から察して、それほどオズワルドは甘いものが得意ではない。そんなオズワルドが、わざわざニーナのためにキキルに頼んで用意してくれたのだ。
(看病のお礼なんだろうけど……。マズイなぁ……。本格的に勘違いしちゃいますよ。オズさん!)
 オズワルドの気遣いが、いっそ恨めしい。
 何故こんなに優しくしてくれるのか、本当は聞いてみたい。その答えは果たして自分が望んでいるものなのか。それともただの看病のお礼なのか。
 オズワルドは相変わらずニーナの一挙一動を見逃さないように、じっとこちらを見ている。額辺りに感じる視線にどんどん熱が籠り、ニーナは俯いたままケーキを熱心に選んでいるふりをした。目が合うのが恥ずかしくて、顔が上げられない。
「ここで一つ食べて、後は持って帰ればいい。ヤマト先生も甘いものが好きなのだろう?」
「あ……ありがとうございます。ヤマト先生もマリアさんもここのケーキ食べてみたいって言ってたんですよ」
(ほら、やっぱりお礼だってば。特別に私だけってわけじゃない)
 そう自分に言い聞かせてから、少し迷ったニーナが選んだのは、シンプルな苺のショートケーキだった。ここのケーキは勿論全て美味しいと評判だが、一番人気なのがこのショートケーキなのである。二つ入っていたので遠慮なく選ばせてもらう事にする。
 キキルはニーナのショートケーキをお皿に置きフォークを添えてテーブルに置くと、自分は飴色のキャラメリゼが見るからに美味しそうな栗のタルトを選び、行儀悪くひょいっと直に摘み上げた。
「じゃ、僕はこれで! お邪魔しましたぁ!」
 そう言ってぱちんっと片目を瞑り、ご機嫌で部屋から出ていったのだが――ニーナは目の前のケーキを見下ろし、今更ながら戸惑う。
 当然ながら用意されたのはニーナの分だけだ。マスクをしているオズワルドが食べられるはずもないのだから当然なのだが、なにせずっとマスクをしているので、いい意味でも悪い意味でも見慣れてしまっていた。
「あの、私も……診療所に戻ってから食べようと思います」
 ニーナがそう言えば、オズワルドは眉間に皺を寄せた。
「好みのケーキはなかったのか?」
「いえっ! えっと……」
 慌てて首を振ったニーナの視線が、自分のマスクに注がれた事に気付き、ニーナが遠慮する理由に思い至ったのだろう。オズワルドは少し気まずそうに後ろ頭を掻いた。
「……ああ、そうか。悪い……一人では食べ辛かったな。私の事は気にしないでくれ」
(……そう言われても)
 ここ最近はすっかり慣れていたが、オズワルドの凝視癖は今も健在なのである。
 一度冗談めかしてやめてくれ、と申し出た事があったのだが、普段言葉少ないながらも優しいオズワルドには珍しく『慣れてくれ』の一点張りだった。目が悪いのかと思ったがそうでもなく……、頼む、と悲しげな顔で繰り返されてニーナは結局頷くしかなかった。つまりは認めてしまったのだ。
 なかなかフォークを取らないニーナに、オズワルドは何か思いついたようにぱちりと目を瞬いた。そして少しだけ腰を浮かせる。
「失礼」
「え?」
 伸ばされた手がニーナの目の前の皿からフォークを摘まみ上げた。大きな手に握られたフォークは、子供のままごとの道具のようだ。
 しかし何を思ったのか、オズワルドはさっくりとケーキのスポンジを切り分ける。ますます意味が分からず、ニーナがぽかんとしていると、オズワルドが唇の端を少し持ち上げたのが、マスクの格子越しに見えた。
(た、食べたかったのかな、って……食べられない、よね?)
「ほら、ニーナ。口を開けて」
「え?」
「落ちてしまう」
 その言葉に慌ててケーキを見れば、器用にてっぺんに乗せられていた断面も美しい苺が、フォークから今にも落ちそうな角度で耐えていた。反射的にパクッと食べにいけば、すぐ近くにオズワルドの顔があった。とても満足そうな表情を見て、ニーナの顔は真っ赤になる。
「も、……子供じゃないんですから……!」
 口を押さえてもごもごしながらそう非難すれば、オズワルドはきゅうっと目を細め、喉を鳴らすように笑った。
「知っている。こんな魅力的な子供はいないからな。――ほら。もう一口」
 ニーナは子沢山家族の長女である。『あーん』なんて、やった事こそ山程あるが、される側に回るなんて記憶にないほど遠い昔だ。異様に照れ臭い。
(恥ずかしい……しかも)
 ニーナの口にちょうどいい大きさに切り分けるオズワルドの目も口元も、柔らかく弧を描いている。彼は一体何故こんなに幸せそうに自分に給仕しているのだろうか。

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