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【25話】お薬の時間です!~狼騎士隊長の担当看護師に任命されました~

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 今度こそ少し間が空いたのは驚いたからだろう。六人姉弟は田舎だとしても流石に多い。両親の仲の良さが少し恥ずかしくなり、ニーナは視線を泳がせつつも頷いた。
「ええ。赤ちゃんを抱っこするの楽しみにしてるんです。お産の時もお手伝いに行ければいいんですけどね」
 過去四回見てきたが、生まれたての赤ん坊はまた格別の可愛さがある。
(あの、むにゃむにゃ動く感じが可愛いんだよね……)
 本当にずっと見ていても飽きないので、ニーナは最初の弟が産まれた時から、ベビーベッドの番人とすら呼ばれていたほどだ。
「……ニーナ」
「はい?」
 囁くような低い声で呼ばれて、ニーナは顔を上げた。オズワルドが浮かべた複雑な表情に首を傾げる。
「ニーナは本当に……」
 そこまで言ってオズワルドは言葉を止めた。
「どうかしたんですか?」
 重ねて問いかけたニーナに、オズワルドは曖昧に首を振った。
「いや、……ああ、もうこんな時間だな。今日は午後から鍛錬に参加する予定なんだ」
「あ! そうなんですね。なんだかんだとまた長居しちゃいましたね。……あの、ヤマト先生から運動の許可は……」
「勿論、得ている」
「それなら問題ないです! ……だけど無理はしないでくださいね」
 ニーナの言葉にオズワルドは柔和な笑みを浮かべて頷く。
「ああ、身体を動かしておく方が、……すっきりしていい」
 確かにオズワルドの身体から筋肉が落ちている様子はない。これまでも鍛錬は続けてきたのだろう。
「気分転換にもなりますもんね」
 ゆっくりと立ち上がり、腕を伸ばして軽くストレッチするオズワルドを見上げたニーナは、自分も帰り支度を始める。
(もうそろそろ投薬も終わりかもしれない)
 昨日と今日とオズワルドは体調も安定して、先程言っていたように激しい運動もこなせるようになってきた。
 そうならば獣騎士隊長であるオズワルドはもう天上人だ。一般の獣騎士とは違いオズワルドは街を巡回するような身分ではないし、きっともう顔を合わせる機会もない。
「……」
 ヤマトに頼まれ、最初こそ地位に腰が引けて断ろうと思っていたオズワルドの往診。
 今ではニーナの日常の一つになりつつあって、それがなくなるなんてなんだか妙な気持ちになってしまう。寂しい、というか。
(……患者さんの快復を喜べないなんて、看護師失格だわ)
 ニーナはそう自分に言い聞かせると、玄関まで送ってくれるというオズワルドと共に部屋を出た。

     ※

 そんな風にニーナが往診終了を覚悟していたにもかかわらず、それからもヤマトの指示のもと、オズワルドの往診は続いていた。
 注射こそするものの、もうオズワルドは最初から紳士で初日のように暴れる事も酩酊状態になるような事も全くなくなった。オズワルドが常に装着している物騒なマスクさえなければ、ニーナすら病気の事を忘れてしまいそうになる程、回復したように見える。
 そんな状態なので二人で話す時間も増え、ニーナは問われるままにオズワルドの質問に答え、そしてニーナも同じ質問を返す。
 そうして二人はお互いの家族構成から好きな食べ物まで知っているという仲の良い友人レベル以上の関係を築きつつあった。しかしどんなに甘い雰囲気になってもニーナの中では患者と看護師である。色恋沙汰で気まずくなって治療に支障をきたすような事を試すつもりはない。それがニーナの看護師としての意地だった。
 今日も注射を打った後は居間へと移動し、お互い向かい合って、いつものようにお喋りを楽しんでいた。その時。
「じゃーん! オズワルド隊長のお遣いで、ダン・ピエールのケーキ買ってきました!」
 ノックもそこそこにオズワルドの部屋に入ってきたのは、いつもの騎士服姿ではなく私服を身に着けたキキルだった。言葉通り王都の有名菓子店ダン・ピエールのお店のロゴが入った紙箱を大事そうに抱えていて、尻尾がご機嫌に大きく揺れている。
「ああ、悪かったな」
「いえ! 自分の分も買いましたから! 僕もこの店ずっと気になってたんですよね」
 どうやらオズワルドに頼まれたキキルが、店までケーキを買いに行ってくれたらしい。もしかして、とニーナが期待した通り、キキルはニーナの目の前にケーキの箱を置いた。
「ニーナ嬢。どれにする? 定番と季節のケーキは外せないよね? 迷いに迷って結局ショーケースに並んでるケーキ全種類買ってきたんだ!」
「ありがとうございます……」
 まずキキルに、そして頼んでくれたらしいオズワルドに礼を言う。「今日は土産があるから少し待ってくれ」と言われ、いつもよりも長く滞在していたのだが、こんな嬉しいサプライズが待っているとは思わなかった。
 以前マリアのクッキーをお裾分けした時に、甘いものが好きだと言ったニーナの言葉を覚えていてくれたのだろう。
「好きなケーキ選んで!」
 両手を広げて「どうぞ!」と白い箱を開けるように促すキキルに、ニーナは遠慮がちに、しかしわくわくして蓋を開ける。自分でも子供っぽいと思うが、なにせ王都で今一番流行っていて行列必至と言われるダン・ピエールのケーキなのである。期待に胸を膨らませつつそっと中を覗き込めば、旬のフルーツで飾られた華やかなケーキや、表面の光沢すら美しいチョコレートケーキ……と、見るからに美味しそうなケーキがぎっしりと詰められていた。ニーナにはそれらすべてが輝いて見えるほど、贅沢な光景だった。

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