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【24話】お薬の時間です!~狼騎士隊長の担当看護師に任命されました~

作品詳細

 確かにニーナが物盗りに遭遇し――たまたま詰め所に行く途中だったらしい獣人の騎士に助けてもらったのだ。ひったくられた拍子に転んで足首を捻ってしまったので、そのまま騎士達の詰所に連れていかれたものの、田舎から出てきたばかりで初めて見る獣人に、ニーナはすっかり固まってしまった。その時の獣人がフードを深く被っており、あまり顔が見えなかったのも悪かっただろう。
 その後はシュケルトの普通の騎士もやってきて、事情聴取を受けた。
 なかなか聞き上手な老騎士で、盗まれたのが田舎の家族へのお土産で初給料で買ったものだと言えば、大いに同情してくれた。
 同じ部屋にいた獣人はそこから一言もしゃべらず、ただニーナの話を黙って聞いていたように思う。そしてニーナが疲れてうっかり眠ってしまった翌日には、荷物は戻っていた。面倒を見てくれた老騎士曰く、ニーナを詰め所まで連れて来てくれた獣人の彼が匂いを辿り、荷物を取り返してくれたらしい。
 後日改めてお礼を、とマリアについて来てもらい、何度か獣人の彼に面会を申し込んだのだが、生憎彼はいつも不在だった。その内、獣騎士団が大人気になり、面会を強請ねだる他の女の子と同じように門前払いをされるようになってしまった。結局直接お礼も言えないまま今に至っている。
(確か、あの獣人さんは……)
 フードを目深に被った獣人は――顔こそ分からなかったが、僅かに揺れていた大きな銀の尻尾を覚えている――。
(……え?)
 慌てて顔を上げれば、オズワルドが懐かしそうな、とても優しい顔で自分を見ている事に気がついた。
「――もしかして」
 フードを被った大きな獣人が目の前のオズワルドと重なる。あの時は顔を上げる事すらなく、その深緑色の瞳も尻尾とお揃いの銀の耳も見る事もできなかったが。
「あの、助けてくれた獣人さんってオズさんだったんですか……!」
「……ああ。言うタイミングが遅れてすまない。話している君がとても可愛くて」
 可愛い。
 あまりにもさらっと言われた言葉に、一瞬思考がフリーズする。そしてあっという間に熱くなる頬をなんとか誤魔化そうと、慌てて俯いた。
(もうやだ。不意打ちで可愛いとか言わないで……!)
 真面目に取っていちいち反応をしてしまう。これが常連の患者さんだとしたら、「ハイハイどーも」なんてさらっと流せただろうに。自分はまだまだ修行が足りない。いや、違う。今はそれよりも。
「あのっ! あの時はどうもありがとうございましたっ! 荷物も取り返してくれてすごく助かりました」
「ああ、家族のお土産だと言っていたな。ちゃんと送れたか?」
「はい! とても喜んでもらいました」
 そこまで言って、ふと嫌な事を思い出した。確かあの時ニーナは詰め所で家族の事を尋ねられ話している内に、思わず大号泣してしまったのだ。家族恋しさと慣れない生活、そして仕事にも疲れていた時期だったのだろう。のどかな田舎で暮らしていたニーナだったので、当然物盗りにあった事もなく、夜道すら野生動物以外は怖いものはないとは思い込んでいた。
 そんな訳で事情聴取は中途半端に終わり、ニーナは大号泣した後、そのまま泣き疲れて眠ってしまうという大失態を犯した。
「その節はご迷惑をおかけしました……!」
 改めて思い返せばかなり恥ずかしい。
 物盗りなんてオズワルドにとっては小さな事件だろう。しかも五年も前の話だと言うのに、覚えていた事がすごい。しかも事情聴取の時に語った家族の話なんて話した本人すら忘れていたというのに、それすらも覚えていてくれたのだ。
(うわぁ………なんか感動してしまう……)
 恩を着せるどころか黙っていた事に対して、少し申し訳なさそうにしているオズワルドに、ニーナの胸がくすぐったく疼く。
 忙しなく表情を変えるニーナを見つめていたオズワルドだったが、ふいに顎を撫でようとし――触れた指が鉄のマスクに当たって動きを止めた。
 その億劫そうな動きに気付いたニーナは、改めてオズワルドのある意味物騒なマスクを見た。
(……あのマスク、まだつけてなきゃいけないのかな……)
 ヤマト曰く過敏になりすぎる嗅覚を抑え、発作に理性を失い、万が一にも他人に噛みつく事がないように丈夫に作られた獣人専用のマスクらしい。しかし格子に覆われた口元はやはり痛々しく――こういってはなんだがオズワルドの精悍な顔立ちと合わさると、どこか倒錯的にも見えた。
「――あれから、家族の元には帰っているのか?」
 そう話しかけられて、ニーナはぱっとオズワルドのマスクから視線を上げる。
「ええ。遠いですけど、一年に一度は帰っています」
「……やはり仲がいいんだな」
 ニーナの返事に少し間を空けてそう返したオズワルドは、どこか寂しそうな、複雑そうな表現しがたい表情をしていた。
 いい加減実家離れしないニーナに呆れたのか、それとも自分の家族の事を思い出してしまったのだろうか。オズワルドの家族について尋ねてもいいものか悩んでいると、オズワルドの方から、「家族は元気か?」と質問を重ねてきた。
「ええ。みんな元気ですよ。春にはまた弟か妹が産まれるんです」
「それは……いっそう賑やかになるな」

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