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【17話】お薬の時間です!~狼騎士隊長の担当看護師に任命されました~

作品詳細

 渡されたショールは光沢のあるグレーで、オズワルドの髪色によく似ていた。ふわりと身体に纏えば、とても温かく手触りが良い。思わずオズワルドの耳や尻尾を思い出し、表面を撫でて溜息をつく。
(明日にはちゃんとお礼言わなきゃ)
 もしくはお返しに何か贈り物をするべきだろうか。しかし同じくらい高価なものは贈る事はできないだろう。どうしようと頭を抱えながらニーナは自宅への道を戻っていく。
 気遣われた通り、外は花冷えの冷たい風が吹いていたのだが、贈られたショールはとても温かく、ニーナはちっとも寒いとは思わなかった。
 そしてこの日を境にニーナとオズワルドは意思疎通ができるようになり、処置中もちょっとした雑談ならば、普通に楽しめるようになっていったのである。

     *

「あら、随分熱心に読んでいるのね?」
 いつものように閑古鳥かんこどりの鳴く受付で、獣人についての本を開いていたニーナは、すぐ近くでかけられた声に驚いて顔を上げた。
 受付に肘をついてニーナの手元を覗き込んでいたのはマリアである。
「――マリアさん!? わわっ! そんな時間ですか!」
 先日に引き続き、また遅刻しかけたのか慌てて時計を確認するよりも先に、立ち上がりかけたニーナの肩をマリアが慌てて押さえた。
「違う違う! 今日はうちのパン屋お休みだから早く来てみたのよ」
「はー……やっちゃったかと思いました」
 ほっとして力を抜いたニーナに、「驚かせてごめんね」とマリアは上目遣いに両手を合わせた。
 ニーナは一旦本を閉じて首を振る。ここまで近付かれても気付かないほど、本に熱中している自分が悪い。ましてや仕事中なのだ。
「まぁこんなに暇だと、本でも読んでないと眠くなるもんねぇ。……って事ではい! 糖分どうぞ。昨日の売れ残りで悪いんだけど」
 肩から掛けていた鞄からマリアは紙袋を差し出した。受け取ったニーナが紙袋の口を開けると、ふわりと甘い香りが鼻を擽る。
「わぁっクッキー!」
 つい子供っぽくはしゃいだ声を出してしまい、ニーナは慌てて口を閉じる。
 中身はドライフルーツがたくさん入っているクッキーだった。いかにも美味しそうな色合いに、再びニーナの顔は綻んでしまう。
 くるくる変わるニーナの表情を嬉しそうに見ていたマリアは時計を指さした。
「ちょうどおやつの時間帯だし、お茶にしましょ」
「いいですね!」
「おーい! 儂の分も用意しとくれー!」
 会話を聞いていたのだろう、診察室にいたヤマトがちゃっかり口を挟んでくる。
「年寄りの癖に耳が良いんだから」とマリアが肩を竦めて診療所の奥へ向かったその時、勢いよく待合室の扉が開いた。
「すみませーん! ヤマト先生の診療所ってここですかー?」
 そう言いながら扉をくぐり抜けるために少し腰を屈めながらぞろぞろと入ってきたのは、獣人の騎士だった。興味深そうに誰もいない待合室を見回してから、受付でぽかんとしていたニーナを見つけて指をさす。
「あ、あの子だ!」
「ほー……あれが例の」
「ちんまいな――あんなんで、オズワルド隊長のア――」
 最後に呟いた一際長い白い耳を持った兎獣人の頭が瞬時に凹む。
 その頭上に落ちていたのは、隣の犬の獣人らしき青年の拳だった。
「馬鹿! 俺らが心証悪くしてどうすんだよ!」
「いってぇえ!」
 一体彼らは何なのだろうか。突然やってきた獣人の団体にニーナは反応に困る。
 話している内容から察するにオズワルドの関係者――そして格好からキキル同様、オズワルドの部下なのだろう。という事はオズワルドに何かあったのか。
「あの、確かにヤマト診療所はここですけど。オズさ――オズワルド隊長に何かあったんですか?」
 なんとなく愛称で呼んでいる事を気まずく感じて、ニーナは咄嗟に言い直して尋ねれば、意気揚々と先頭で入ってきた――小さな三角耳を持つ獣人がぴんっと細く長い尻尾を立たせた。――どうやら彼は猫の獣人らしい。マントをつけていないのでその動きが良く分かった。
「あっ、俺怪我してっ」
 ぴっとニーナに突き出したのはひとさし指だった。鋭い爪が伸びているが、その内側に切り傷がある。それほど深くはなさそうだが、確かに血が出ていた。
 確か獣人は自己回復力が強く、ちょっとした傷なら自分で舐めて治す――と本には書いてあったが、あれは嘘だったのだろうか。
 近くで見れば、正直ニーナなら病院に行こうとは思わない程の軽傷だが――まぁ、傷口からばい菌が入る事もあるので、消毒くらいはしてもいいと思うが。
「俺らは付き添い! なぁ!」
「うん!」
 残る二人もひょいっと顔を出してニーナに笑いかけるが、――その内の一人はどこかで見たな、と思い出した。
 確か一昨日、処置を終えたオズワルドの部屋から出て来た時に、キキルと一緒に静かに爆笑していた獣人の一人だ。
「一応ヤマト先生に診てもらいましょうか――ってマリアさん……?」
『ごめんっアレルギー!』
 彼らの死角で口を動かしたマリアに、そうだった! と頷いたニーナはヤマト先生に伝えてくれますか? と、お願いしてこの場から避難させる事にした。

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