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【13話】お薬の時間です!~狼騎士隊長の担当看護師に任命されました~

作品詳細

 ニーナが慌てて胸を逸らせて当たらないようにすれば「きゅううん」と、どこからか妙に可愛らしい声が響いた。
「……え?」
 勿論部屋にはニーナ以外一人しかいない。
(まさかオズワルド隊長……!? どっから声出してんの!?)
 母親に甘えるような子犬の声に固まり、結局は膝の上に落ちついた美丈夫の顔をまじまじと見つめてしまう。
 しかも目の前にはふるふると震える耳だ。どうにも寒そうに見えて思わずニーナは手を伸ばした。そこからはほぼ無意識に、うっかり実家のヨーゼフにしていたように、根元を丁寧に撫でてしまう。
 ぴくぴくっと数度動いたオズワルドがうっそりと顔を上げる。前髪から覗いた深緑色の瞳は真っすぐにニーナを映し、煌めいているような不思議な色合いを見せていた。
(え、……どう、しようかな……)
 そう思いながらも、耳の根元と形の良い後頭部を撫でる手は止まらない。昨日こそ気付かなかったが、色彩的に固そうだと思ったオズワルドの銀髪は意外なほど柔らかくて驚いた。
(ああ、でもやっぱりヨーゼフに似てる……)
 色合いといい頭の重さといい、父が自慢していたオオカミ犬にそっくりだ。
 よしよし、と撫でていると、それに合わせるようにオズワルドの呼吸が落ち着いてくる。靴を履いたままなので、靴底がシーツに触れないように少しだけ身体をずらして完全に膝枕状態にしてみた。足が辛いが少しだけ我慢だ。
 呼吸の次に落ち着いたのは汗の量だった。医療鞄に手が届かないので、ワンピースのポケットから私物であるハンカチを取り出し、汗を拭いてやる。
 しかし顔はともかくとして、このままではオズワルドの身体が冷えてしまうだろう。しかし必死にくっついているように見えるオズワルドに、妙な母性のようなものを感じてしまったニーナは動く事もできない。
 眉間の皺は消えたのだが――目は少しトロンとしていて眠そう、というよりは昨日同様、酩酊状態だ。もしかするとこれは副作用なのだろうか。脈は安定。体温も徐々に落ち着いてきた。
 もし獣人と自分達とで作用が違う薬があるのなら、ぜひ覚えておきたい。……そもそももしかすると、獣人の国の医療はまたこちらとは違うのだろうか。
(キキルさんにでも聞いてみようかな。あ、でも獣人の国……エルティノの医療では難しいからこそ、ヤマト先生に薬の依頼が来たんだよね?)
 やはり自分はもう少し獣人を理解しなければいけない。
「――はい。もう大丈夫だと思います。お疲れ様でした」
 注射をしてから、きっちり三十分。
 すっかりリラックスしていたらしいオズワルドの頭を持ち上げて、枕を手探りで引き寄せその上へと慎重に下ろす。
 おそらく自分がこの部屋から早く出て行けば、この拘束は解かれるだろう。
 昨日とは違い、今日は明らかに快方に向かっているので一刻も早く拘束着から自由にさせてやりたい。
 自分の目でも元気になる瞬間が見たいな、と一瞬思ったものの、ニーナは素早く片付けをして鞄を持ち上げた。
「また明日来ますね」
 返事ができない事は知りつつも、後ろ手に振り返ってそう声を掛ければ、じっと見つめるその目が何か言いたげに瞬きを繰り返している事に気付いた。
「オズワルドさん……?」
 すぅっと細まった目と、そして上下に動いた顔に、ここに来て初めて意思の疎通を感じたニーナは嬉しくなる。
 にっこりと微笑むと「すぐ拘束を解いてもらうように頼んできますね!」と弾んだ足取りで部屋から出て行ったのだが――。
 オズワルドはニーナが消えた扉を、熱の籠った瞳でただじっと見つめていた。

 そして一方、扉の向こうでは。
「くぅんって……! あのオズワルド隊長がくぅううんって子犬みたいな!」
 オズワルドの部屋から出て廊下へ出たニーナは、奇妙なものを見た。キキル以下数名の騎士姿の獣人達が、廊下でそれぞれうずくまり――あるいは壁に手をついて、小声で爆笑していた。
「やっべぇ。腹が捩れそう……!」
「むしろ俺、隊長が正気を取り戻した時の反応が怖いわ。腹掻っ捌いて死ぬんじゃねぇの」
「いやいや、ニーナ嬢がいるのにそれはさすがに――って、あ!」
 いち早くニーナの存在に気付いたキキルが、ニーナに向かって……指をさせば、あっという間に四人ほどいた獣騎士達がぴっと整列した。相変わらず素早い動きだが――。
「笑っちゃ駄目ですってば」
 キキルはおそらく笑い上戸だと分かっていたが、他の獣騎士達もそうなのだろうか。気安い雰囲気のキキルに、部屋に入った時のオズワルド隊長の苦しげな顔を思い出し、ついむっとして注意する。
 キキルはそんなニーナの言葉に大きな手で口元を覆うと、どうにか笑いを呑み込んだ。
 後ろの獣騎士達もそれなりに真面目な顔をしているが若干名は肩が震えている。もしやオズワルドは部下に恵まれていないのではないだろうか。
 そんなお節介な事を思いながら、ニーナは処置が終わった事をキキルに伝えた。
「今日は薬がよく効いたみたいで、それほど暴れたりしませんでした」
「そう。お疲れ様。いやぁ……薬早く効果が出るといいね」
「ええ」
 それからキキルは昨日同様ニーナを送ると申し出たのだが、今日の騒ぎを思い出し丁重にお断りする。
 行きの馬車で話した事が良かったのだろう。「じゃあ、気をつけてね」とあっさりと受け入れてくれたキキルに、ニーナはほっと胸を撫で下ろしたのだった。

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