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【12話】お薬の時間です!~狼騎士隊長の担当看護師に任命されました~

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(あまり変な事は言わないようにしよう……)
「まぁ、でも今日はさすがに大丈夫だと思うけど」
「え?」
「あ、ごめん。お喋りしすぎちゃった。薬の時間があるんだよね? オズワルド隊長が待ってる。早く行ってあげて!」
「……そうですね。では、失礼します――」
 確かにキキルの言う通りだ。いつまでこうしていても仕方がない。ニーナは鞄を片手に纏め、寝室に続く重い扉をノックした。しばらく待っても返事がないのでノブを回しそっと中へと入った。
 薄暗い寝室に置かれた大きな寝台には、昨日と同様に大きな布の塊――いや、オズワルド隊長が転がっていた。しかし、その姿を確認した途端、ある意味昨日以上の衝撃にニーナは固まった。
 そこにあったのは一般的に見る事のできない、ある意味異様な光景だった。
 身体は拘束着で包まれ、一切の身動きはできず、口元も昨日よりもグレードアップした黒いマスクで顔の下半分が覆われていた。昨日突然飛びかかって来たオズワルド隊長からニーナを守るための拘束だろうか、それともそれ以外にも暴れたために拘束したのかもしれない。相変わらず息は荒いが、それほどきつく縛られてはいないらしく、血流が滞っているような部分はない。
 しかし。
「ちょっとやりすぎ、じゃないですかね……?」
 誰に尋ねたのか、もちろんニーナにも答えられない。
 ただ、目の前の異常な光景を共有かつ共感してくれる仲間が切実に欲しかった。
 ふー……っ、と細かく吐き出される吐息に、呼吸はできているのかと心配になって近寄り、顔を覗き込む――と、ばちっと目が合った。
「……っ!」
 相変わらず、後ずさってしまうほどの眼力である。血走った深緑色の瞳はやっぱり潤んでいて、熱も高そうだ。
(昨日の注射は効かなかったって事かしら)
 しかし落ち込んでいた――とキキルから聞いたばかりである。逆に今まで小康状態だったが、薬が切れてきたのかもしれない。
「あのっキキルさん!」
 これまでの様子を聞こうと、振り返って扉に近付き声を掛けてみるが、返事はない。
(近くにいるって言っていたのに!)
 もしくはたまたまどこかに行ってしまったのかもしれないが、役に立たない事この上ない。
 ぎしっと寝台の柱が軋む音が聞こえて慌てて振り返る。大きな声に驚いたのだろうか、獣人の男が……いや、オズワルドは大きな身体を弾ませて拘束を解こうと暴れ出した。
「オズワルド隊長! 暴れないでください!」
 あのままでは落ちれば受け身も取れないだろう。咄嗟にそう叫べば、ぴたっとその動きが止まった。
(あ、大人しくなった。……そういえば昨日も言う事聞いてくれたっけ?)
 やはり理性が残っているのだろうか。むしろ素直な患者は大歓迎だ。
 これなら猿轡を外しても大丈夫なのではと思うが、なにせ獣人である。……彼の耳や尻尾から察するに恐らく犬か狼の獣人だろう。もしかすると鋭い犬歯があるかもしれない。
 そんなものを喉元に突きつけられたら確実に死ぬだろう。結論。さっさと注射をしよう。
「今から注射しますね」
 そう言ってシーツを捲り、梃子の原理でオズワルドをまっすぐに寝かせる。ヤマトからの指示があったのだろうか。用意の良い事に腕の外側部分だけがうまく切り取られていた。腕の位置も悪くない。
 手早く鞄から注射セットを取り出し、薬液に浸したガーゼで消毒する。
「ちょっとチクっとしますよー」
 ついついいつもの癖でそう言ってしまい、ニーナは少し恥ずかしくなった。立派な獣人の成人男性に対する口調ではない。
 そろりと様子を窺えば、またしてもニーナをじっと見つめているオズワルドの視線とかち合った。
(……この視線は、どうにかならないものか……)
 注射をされる時、人は針先を見るか明後日の方向を見るか二つに一つである。しかしオズワルドは第三の選択肢として『従事者の顔を凝視』を生み出したらしい。
(緊張して失敗する可能性もあるから、それは一番の悪手です……)
 さすがにここまで凝視されると、ベテラン看護師のニーナといえども緊張する。それに熱が籠り過ぎている視線はぎらぎらしていて――何というか狼が兎を前にして舌なめずりしているような、そんな心地にさせられる。
(狼って肉食獣だもんね……)
 そんな事を思いながらニーナがいつもより緊張しながら角度に気を付けて針を刺すと、オズワルドの身体がまた大きく震えた。しかし視界の端で様子を窺うが、痛そうな顔はしていない。
 しっかり薬液を流し込み、そっと引き抜くと手早くガーゼで押さえる。
 軽く揉んでから手を離すと、僅かに滲んでいた血は止まっていた。
 ニーナは緊張を解き、ガーゼを処分しようと寝台を離れようとしたその時、――やはりというかなんというかオズワルドが昨日と同じように、勢いよくニーナの方へ身を寄せてきた。
「オズワルドさん!?」
 落ちてしまいそうな勢いに慌てて止めようとすれば、とん、と突き出した頭にニーナの腹が触れる。全く昨日と同じ状況だった。
(またか――!!)
「……っ」
 昨日と同じような騒ぎになるのは避けたくて、ニーナは悲鳴を呑み込んだ。――が、オズワルドのマスク越しの鼻先がニーナのお腹に何度も擦りつけられ、ぎょっとする。エプロンを着けてきたといっても夏も近付いてきたこの季節、ニーナが着ているのは薄手のワンピースだ。

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