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【11話】お薬の時間です!~狼騎士隊長の担当看護師に任命されました~

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「あの……オズワルド様は、その後どんな様子でしたか?」
「ん? あっそうそう! 昨日君が帰ってから正気に戻った時の落ち込みっぷりったらね!」
 言葉の途中で堪えきれなくなったのか、キキルはぶぶっと言葉の最後で噴き出した。どうにか堪えようとしたのが逆に悪かったのか、ニーナから顔を逸らしたものの、笑いの発作はしばらく治まりそうにない。
(なんだろう。キキルさんってオズワルド様の部下なのよね……。かなり失礼な態度なんだけど……怒られないのかしら?)
 こんな態度が許されているのならば、オズワルドはヤマトの言う通りよほど心の広い人なのだろうか。しかしそれならニーナがあれほど睨まれた理由が全く分からない。
 そしてニーナが帰ってから落ち込んだと言う事は――オズワルドはニーナに抱きついた事を覚えているのだろう。……こちらとしても若干気まずい。
「ニーナ嬢?」
「いえ、あの落ち込めるほど、落ち着いたのなら良かったです」
 つまりはそういう事なのだろう、と判断すれば、キキルはちょっと驚いたように目を見開いてから、ふっと笑った。
「ニーナ嬢は真面目だね。……ああ、着いたみたい」
 やはり馬車は早い……と思えば、それに加えて御者はまさかの馬の獣人らしい。やはり種族の特性によって仕事にも向き不向きがあるらしく、馬の獣人が御者をやると馬はよく言う事を聞くそうだ。
(……これから獣人の国エルティノとの交流が盛んになったら、獣人の患者さんも診療所に来るようになるかもしれないわよね)
 ニーナは獣人に対しての知識が無さすぎる。
 今回のオズワルドに関してのみならず、これは早急に叩き込むべきだろう。診療所の二階の物置に無造作に積み上がっている本の中に、彼らに対する本はなかっただろうか。もしくは直接ヤマトに聞いた方が良いかもしれない。
(もしくは獣人かぶれの常連のおじいちゃん、近い内に来てくれないかな……。聞き流さずにちゃんと聞いておけばよかったわ)
「あ、悪いんだけど、一人で馬車から降りられる?」
 乗合馬車同様、御者が扉を開けてくれるのを待っていたニーナだったのだが、一足早く反対側の扉を開けたキキルが、少し申し訳なさそうな顔をして振り向いた。
「え?」
「昨日ニーナ嬢の腕を掴んで部屋から出た事、すごく怒られちゃってさ。次、接触したら一発くらいじゃ済まなさそうなんだよね。御者の彼も一緒」
 キキルの言葉にニーナは首を傾げて足元を見る。そうか、馬車に乗るような貴族の女性は大抵同伴している相手か、もしくは御者に手を取られてしずしずと降りるものだ。
「貴族の令嬢でもありませんし、大丈夫ですよ」
 仕事用の靴の踵はぺったんこで、捌くのに困る程のスカート丈でもない。それにしても獣人の騎士というのは、独身の娘の手を取るのも許されないのか。さすが生涯一人を愛し抜く――などと言われるだけのストイックさである。
「いや、君じゃなくて……あー……うん。とりあえずごめんね」
 ごにょごにょと言い淀むキキルにニーナが首を傾げると、キキルは誤魔化すように笑って反対側から降りた。素早くニーナの方へ回り込み扉を開けてくれる。
 脚踏み台は高さの違うものをわざわざ二つも用意してくれたので、全く問題なく降りられたのだが、キキルはそれでも申し訳なさそうにしていた。御者も同様にニーナの足元を見守っており、むしろそちらの方が気になり妙に緊張してしまった。
 キキルはニーナを先導するように前に立つと、真鍮しんちゅうのドアノッカーを叩く事なく、そのまま扉を開けて屋敷の中へと入った。扉を片方の手で押さえたままニーナに中に入るように手招く。
 相変わらずのエントランスの豪華さに、ついつい尻込みしたくなったが、再びキキルに促されて、ニーナは昨日ぶりになる屋敷の玄関ホールに足を踏み入れた。
 昨日と違い、老年の優しげな執事の姿は見当たらない。
 なんとなく心細くなってしまうのは、気配がないにもかかわらず獣人がいるのが分かっているからだろうか。
(普通に出て来て挨拶してほしいのに、なんで隠れているんだろう……)
 これもオズワルドの病気に関連する何かなのか、あるいは身分差か。
(獣人だけ罹患りかんする病気で隔離されているとか? ……そういえば試薬期間っていつまで設定されてるのかしら)
 普通は効果が見込めないのなら、投与を中止するか、他の薬を試すのが定石だが特にしばらくとしか聞いていない。
 腕に引っかけた医療鞄を抱え直して、心の中で溜息をつく。病状が回復するまでなのだとしたら、結構な期間になるのではないだろうか。
 急な展開が続くせいかこんな風に後から疑問が浮かんでくる。聞き零している事が多すぎる気がしたニーナは、落ち着いたらしっかりと纏めてヤマトに尋ねようと心の中にメモした。

「オズワルド隊長。お薬の時間ですよー!」
 昨日と同じ二階の奥の部屋の前で、おざなりなノックをしたキキルは、返事を待つ事もせず扉を開けた。
 昨日の執事とは違い居間部分に入る事なく、ニーナだけを中に通す。
「あの、キキルさんは?」
「あ、ごめんねぇ。昨日と同じく、僕達は緊急事態しか入室を許可されてないんだ。――あ、でも隊長が無体な事したらすぐ飛んでくるから安心してね」
「……あ、はい」
 昨日も思ったのだが、普通の会話すら彼らは聞き取るのだろうか。言葉は悪いが盗聴されているようで、少し気詰まりに感じるのは確かだ。

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