【最終話】恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

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 結婚を了承した後の、透真さんの行動は素早かった。
 あっという間に私の両親への挨拶を済ませ、親代わりである結子さんご夫妻にも、二人で報告しに行った。
 皆、私の将来についてはそれぞれ思うところがあったらしく、特に母は、涙ぐみながら私の結婚を歓迎し、喜んでくれた。
 結子さんも安心したように微笑んで「協力したかいがあったわ」と呟き、透真さんと意味ありげな目配せを交わしている。
(協力……してたんだ)
 なんとなく、そうじゃないかとは思っていたけれど。
 そして透真さんの希望により、早急に入籍を済ませることになった。
 結婚式は彼の仕事の関係で、準備が色々と煩雑になりそうなので、時間がかかるのを見越して、先に入籍だけしてしまったのだ。
 特にそうしなくてはならない理由があったわけではなく、単に「早く夫婦になりたい」という透真さんの個人的な希望によるものだ。

 そうして無事、夫婦になった後、結婚式の準備を進めるうちにわかったことがある。
 最初のプロポーズの時、透真さんはたしか自分の家を「ごく普通の一般家庭だよ」と言ったが、あれは嘘だった。
 たしかに父親は一代で財を成した人だったが、母親は有名な大手メーカーの創業者一族の娘で、親戚にも財界の大物がうじゃうじゃいるような、名家と呼ばれる超上流家庭出身のお嬢さまだったのだ。
「一般家庭とか小さな工場とか、嘘ばっかり!」
 そう言って怒ったら、透真さんは「大丈夫。何も問題ない」と言って呑気に微笑んで見せた。
 上流社会で必要な立ち居振る舞いも心構えも、社交界に出る前に、叔母である結子さんが一から教えてくれるという。
 助けてもらえるのはありがたいのだけれど、それでは自分は受け取るばかりで、誰にも何も返せていない。私はやっぱりお荷物で、経済的にもそれ以外でも、一方的に負担をかけるばかりになってしまう。
 そう思い、少し落ち込んでいたら、それを知った透真さんがこんな提案をしてきた。
「じゃあ、里歩ちゃんが無理せず自分の好きなことをしてお金を稼げる仕組みを、僕が用意してあげる」
(仕組みを用意するって、どういうこと?)
 聞けば、どうやら彼は以前、私が自活にこだわっていることを知ってから、密かに準備を進めていたようだ。
 私がその提案を受けた時にはもう、あらかた準備が終わっていた。
 ――それはお弁当の配達事業。
 しかも、提供するのは普通のお弁当ではなく、無添加・旬の新鮮な食材・栄養バランス・美食を兼ね備えた、数量限定の超プレミア弁当だ。
 レシピは私の考えたものを元にして、管理栄養士である母に監修してもらう。
 受付はネットと電話による完全予約制で、登録メンバーは紹介会員のみ。主な顧客は、地元近隣の富裕層だ。
 数量限定とはいえ、実際に作る作業は、透真さんの会社が買収した小さな食品加工会社が請け負うので、私が作業に関わることはない。
 私がやることと言えば、毎月決まった数のレシピを新たに考案し、調理方法や実際の味付けが上手くいっているかをたまに現場でチェックするだけ。
 経営は透真さんが、そして会社の管理運営は、その会社で雇われた社員たちがこなす。
 サイトと予約受付のシステムはすでに完成しており、レシピと稼働の許可が出て日取りが決まれば、すぐにでも事業を始められるという。
 その話を聞いて、私は軽く眩暈を感じた。
 つまり透真さんは、仕事の合間に、自分の持てるスキルを駆使して、新たなベンチャービジネスを起ち上げてしまったのだ。――私の自活のためだけに。
 そのお弁当配達会社の社長は一応、透真さんということになっていて、私は取締役に名を連ねる。そうして会社が上手く回り出せば、私は役員報酬とレシピの買い取り代金を、そして母も監修料ということで、毎月決まったお金を受け取ることになるわけだ。
 私は自分でも知らないうちに、お弁当会社の役員になることが決まっていた。
「これで、自活は達成でしょ」
 そういって笑う透真さんと私では、多分「自活」という言葉の意味がだいぶ違っている。
 それに彼は、もし自分に何かあった時、私が一生働かなくても生きていけるだけのお金を残すため、入籍と同時に保険やら財産分与やら、色々な手段を行使したらしい。
 それを聞いた私は、そもそもの次元が違いすぎて、自分は一体どんな人と結婚してしまったのだろうかと、今さらながら空恐ろしい気持ちを味わうことになった。
 こうなると、もう何をどうしたらお互いさまになるのか、全然わからない。
 なので私は、本人に直接聞いてみた。
「私は透真さんのために何をしたらいいですか?」
 すると彼は、当然のようにこう要求してきた。
「毎日、僕のためだけの美味しいごはんと、おやつを作って欲しい」
 ならば、私はせめて自分にできるかぎり精一杯の愛情を込めた、美味しいごはんを作ろう――
 そう決意して、今はすっかり私のお城と化したこの家のキッチンへと向かうのだった。

END

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