【52話】恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

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 気持ち念入りに身体を洗って、シャワーのコックを締める。
 緊張しすぎてすでに倒れそうだったけれど、私は半分諦めの境地に足を踏み入れながら、バスタオルを身体に巻いた。そうして何度か深呼吸をして、露天風呂に続く扉を開く。
 湯舟の縁に腰かけて景色を眺めていた透真さんは、こちらを振り返ってニッコリ笑った。
 彼は何も隠そうとしていない。私は息を呑み、目のやり場に困って外の景色に目を向けた。
 露天風呂のあるテラスの向こうには一面紅葉した山々が広がっていて、たしかに絶景ではある。でもそれを楽しむ余裕は、私にはなかった。
「里歩ちゃん。身体が冷えちゃうから、早くお湯に浸かって」
「……は、い」
 緊張で声まで震える。バスタオルを巻いたまま湯舟の縁を跨ごうとしたら、彼がサッと近づいてきて、タオルの合わせ目を解かれてしまった。
「あっ、や……っ」
 とっさに手で胸元を隠す。彼は私の全身に視線を走らせると、取り上げたバスタオルを背後に放った。
「おいで、里歩ちゃん」
 透真さんは私のお腹に腕を回し、強引に湯舟の中へ身体を沈める。背後から包むように抱きしめられ、私は彼の腕の中にすっぽりハマった状態で肩までお湯に浸かった。
「肌が冷えてるね。でもこうしてれば、すぐに温まるよ」
 彼が耳元で甘く囁きかけてくる。
 背中だけでなく腕や首すじ、頬などが触れ合うたび、肌がざわめいた。
 心臓の鼓動はこれ以上ないほど速く高鳴っており、彼の存在を生々しく感じることで、あっという間に体温が上がっていった。
「透真さん……」
「里歩ちゃん。もう離したくない」
 彼は吐息交じりにそう呟くと、私のうなじから首すじ、そして肩先まで唇を這わせていった。その感触に全身の皮膚がゾワゾワと粟立つ。
 感じすぎてのぼせてしまい、すぐにクラクラと眩暈がしてきた。
「透真さ……も、無理、です……」
「わ、里歩ちゃん! 大丈夫?」
 彼が慌てて私の身体をお湯から引き上げる。湯舟の縁に座らされて、さっき放り投げたバスタオルを巻かれた。そしてまた横に抱き上げられる。
 透真さんは私を抱いたまま、足元が滑らないよう慎重に部屋の中まで戻った。
 彼は私をソファに座らせると、すぐに冷水の入ったグラスを持ってきて、私に飲むように言う。
 私はお礼を言いつつも、全裸のまま走り回る彼の姿を見ないよう、懸命に視線を逸らしていた。
「冷えるのも、のぼせるのも、あっという間だったね」
 そう言って、どこからか団扇を見つけてきた透真さんは、私の隣に座り、それでパタパタとあおいでくれる。彼はいつの間にか下着を穿き、来るとき着ていたTシャツだけ身につけていた。
(良かった、着てくれて)
 下着姿でも直視し難いけれど、全裸よりは全然いい。
「すみません……お手数かけて」
 申し訳ない気持ちで謝ったら、彼は「こっちこそ調子に乗って振り回してごめん」と呟いた。
「里歩ちゃんとデートだと思ったら、ついあれもこれもって……」
 綺麗な景色と美味しいごはん、ついでに温泉も一緒に入れたら最高だと考えたらしい。
 私はそれを聞いておかしくなり、思わず笑ってしまった。
「欲張りですね、透真さん」
「言われてみれば、そうだね。短かったけど一緒にお風呂は入れたし、あとは里歩ちゃんと仲良くできれば完璧だな」
「……仲良く、ですか?」
「うん。ベッドでね」
 ドキッとして、顔が一気に熱くなる。
 それを見た透真さんが、また団扇をパタパタと動かした。

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