【5話】恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

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 ――あれから一ヶ月。
 人様のお宅のキッチンで料理をするのに慣れなくて、初めは戸惑うことばかりだったこの仕事も、それなりにペースが掴めてきた。
 夕飯が必要な日と不要な日はあらかじめ教えてもらえるし、お休みもしっかり取れるので、体調管理はとても楽だ。
 結子さんの家は客人も多く、日によって食事をする人数が変わる。それに一日か二日お休みが入ると冷蔵庫の中身もガラリと変わるので、結子さんの家に到着したら、まずはキッチンへ向かった。そこで当日食事をする人数と食材の残りを確認してからメニューを決めて、買い出しに出かけるのだ。
 お客様の好き嫌いや分量などのリクエストも色々されるから、それらに細かく応えていくのは、かなり大変だ。でもやりがいがあって楽しい。
 こうして好きな料理を思う存分に作れて、褒められて、お金ももらえるなんて――
 社会に出たら、私は人に面倒をかけるばかりの存在で、誰かの役に立つことは難しいのかもしれないと思っていた。でもここで仕事をするうちに、そんなことはないのかもしれないと、だんだん思えるようになってきた。
(この先どうなるかは、わからないけど……)
 この仕事はいつまで続けられるだろうか。ある日突然、結子さんから「必要なくなった」と言われる可能性も、なくはない。
 そんなことを考えていたら、ある時、彼女から「他の家にも出張してみない?」と聞かれた。
「他の家、ですか?」
 結子さんはキッチン脇のダイニングで優雅に紅茶を飲みながら頷いた。
「この間、私の甥っ子がここへ来たのよ。その日はエリックの帰りが珍しく遅かったから、その分の夕食を彼に出したのね。そうしたら、里歩ちゃんのお料理をとっても気に入っちゃったみたい。あなたの話を聞かせたら『ぜひ僕の所にも来て欲しい』って」
 エリックは、結子さんのご主人の名前だ。そして甥っ子さんは独身で、両親の残した家でひとり暮らしをしているという。彼の家に行くのは、ここでの夕食がいらない日など、私の予定が空いている時だけで構わないそうだ。
 結子さんの親戚なのだから、身元は確かなのだろう。それに彼女が勧めるくらいだから、人柄も悪い人ではないのかもしれない。
(でも、ひとり暮らしの男性の家にお邪魔するのは……)
 悩んでいたら、結子さんはそれに気付いて、おかしそうに微笑んだ。
「大丈夫よ。あの子の家には、住み込み家政婦の田村たむらさんがいるから。お年はそこそこいってるけど、とてもしっかりしてて頼りがいのある女性なの。だから何も心配いらないわ」
 住み込みということは、いつも必ず家にいるということだ。つまり、甥っ子さんと私が、家の中で二人きりになることはない。
「それなら……できるかも」
 いくらここの日給が高くても、週三回か四回の出勤では、収入は限られる。先のことを考えるなら、収入源はもう少し増やしておきたいところだ。
 かといって私の場合、体質のこともあるから無理は出来ない。だから空いている時だけでいいというのは、とてもありがたい申し出だった。
「ぜひ紹介してください」
「まあ、良かった! きっと喜ぶわ!」
 結子さんはそう言って嬉しそうに目を輝かせ、さっそく甥っ子さんに連絡を入れていた。

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