【21話】恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

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   *

 翌日。
 少しだけ早起きして作ったサンドイッチを箱に詰めてから家を出た。
 昨日は昼食と三時のおやつ、そして夕食まで、彼と一緒に取ってから帰宅した。
 睡眠時間はきちんと確保したつもりだけれど、昨日、慣れない家で慣れない家事をこなしたせいか、全身に疲れが残っている。
(今日はきちんと掃除もしなきゃ)
 どうしたらあんなに広い家をピカピカの状態に保てるのか、田村さんが戻ってきたらぜひとも聞いてみたい。散らかし魔王の所業はすごいのだ。移動する先々に色々な物が落ちている。
 榊家に到着してチャイムを押すと、インターフォンからは、かなり眠そうな声が聞こえてきた。
『――はい。あ、里歩ちゃんか』
「おはようございます」
『早いね……』
 それだけ言って通話は切れ、門扉の鍵がガチャリと開いた。
 いつものように中に入って先へ進む。
 しばらくすると玄関のドアが開き、姿を見せた透真さんは明らかに寝起きの状態だった。髪には寝グセがついたままだし、着ているTシャツもよれている。ほんの直前まで眠っていたのかもしれない。
「すみません……起こしちゃいました?」
 心配になって見上げたら、彼はモサついている頭を振って、人懐っこい笑みを見せた。
「別にいいよ。でもできればチャイムじゃなくて、ベッドで優しく起こして欲しかったな」
「え?」
「だから、はい」
 手を差し出されて、こちらも手を開くと、二種類の鍵を一つに括った束を渡された。
「門の鍵と玄関の鍵だよ。これからは勝手に入ってきていいから」
「ええっ?」
 出会ってまだ三日目の人間をそこまで信用していいのだろうか? しかも家政婦としては臨時なのに。
 でも考えてみたら、ここに泊まれない以上、鍵は預かっておかないと、透真さんの負担が大きすぎる。私に気を使って外出もままならなくなるだろう。
「じゃあ田村さんが戻るまでの間、お預かりします」
 そう言ったら、彼はニッコリ笑って頷いた。
「ずーっと持ってていいよ。いっそのこと、ここに住んじゃえば?」
「はい?」
 なんてことを言うのだろうか。冗談だとわかっていても、ついドキッとしてしまう。
「からかわないでくださいよ、もう」
 透真さんは、私の真っ赤なふくれっ面を見て、おかしそうに笑った。

 鍵がそれぞれ一つずつでは、この大きな家に対してさすがに不用心じゃないかと思っていたら、やはりそれだけじゃなかった。実は玄関ドアの鍵穴の上部に、生体認証のセンサーが設置されていたのだ。
 細長いカード型のキーを差し込むのと同時に、センサーを覗き込む。すると機械が眼球の虹彩パターンを読み取って、鍵が開くようになっているそうだ。
 家の中に入ってすぐ、そのパターンを登録させられた。
「近未来的ですね」
 ドギマギしながら呟いたら、透真さんはハハッと笑って言う。
「もう色々な所で使われてるけどね。自宅の玄関に設置している人はまだ少ないかな」
 カードキーと認証の両方がないと開かないので、鍵はなくさないようにと言われた。
「わかりました。気をつけます」
「これでもう、里歩ちゃんも家族の一員だね」
 とても嬉しそうな顔でそんなことを言う透真さんを見て、ふと思う。
 彼はたしか昨年、両親を事故で亡くしているのだ。
(だから〝家族〟って言葉をよく使うのかも……)
「透真さん」
「ん?」
「ありがとうございます。その……私を雇ってくださって」
 家族と同様に大事な存在として、私を受け入れてくれたことに対する、感謝の気持ちだった。
 すると透真さんは驚いたように目を見開き、その後すぐ満面の笑顔を見せた。
「里歩ちゃん。ハグしていい?」
「は? ……ぐ?」
「うん。家族だし」
(家族って、そんな気軽にハグとかするものだっけ?)
 少なくとも、うちの家族にそんな習慣はなかった。
 混乱する私を、彼はすぐさま腕の中にぎゅうと抱き込む。
「うちに来てくれてありがとう、里歩ちゃん」

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