【20話】恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

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 私は喉の奥に苦いものを感じて、それを無意識に飲み込んだ。
「二回は途中で具合が悪くなって、三回目で倒れました。その後すぐに『もう無理』って言われて、振られちゃいましたけど」
 まだ高校生の頃の話だ。遅い初恋の、かなり痛い思い出――
 それ以来、私は誰とも付き合おうと思わなかった。チャンスの有無以前に、自分に恋愛は無理だと悟ったのだ。
「私が相手じゃ、気を使ってばっかりになって楽しくないですよ」
「それさ、学生時代の話じゃないの?」
 透真さんの問いかけに、私は戸惑いながらも頷く。
「そうですけど……」
「長時間歩けないなら、歩かなくて済むようにしようよ。移動は車で、人が少ないゆったりした場所で綺麗なものを見て、美味しいものを食べる。これならどうかな?」
 そう言われ、私はつい自然の中にある見晴らしのいいテラスで透真さんと二人、のんびりお茶を飲む光景を思い浮かべてしまい、ハッとした。
(なに今の、キラキラした妄想!)
 たしかに車で移動できるなら、体力面での心配はないかもしれない。でも問題はそれだけじゃないのだ。
「そもそも、デートなんかしたら緊張で倒れますから。私、本当に免疫ないので」
「なら、僕で練習したらいいよ」
「はい?」
(透真さんみたいな人と練習? ムリムリ!)
 彼が相手じゃ練習どころか、一生に一度あるかないかの大舞台になってしまう。
 それにしても、彼はなぜこんなことを言い出したのだろうか? もしかして、休みの日も家に籠もっている私に同情したとか……?
「練習なんて必要ないです」
 プルプルと首を横に振る私に、透真さんは少しガッカリした様子で訊ねた。
「里歩ちゃんは、彼氏作る気ないの?」
 その言葉に、私はむうっと口を尖らせる。
「まだ自分のことだけで手いっぱいです。困った体質ですけど、いずれは自活しなくちゃいけないし」
 すると透真さんは、なぜか驚いたように目を丸くしながら呟いた。
「自活……」
「おかしいですか?」
「いや。それ自体はいいと思うけど」
 彼は私の顔をジッと見つめて、なにやら言いたそうな顔をした。でもしばらく考え込み、ボソリと呟く。
「わかった。ちょっと考えてみる」
(……え?)
「考えるって、何をです?」
 問いかけると、透真さんは涼しい顔で、首を横に振った。
「いいから、里歩ちゃんは気にしないで昼ごはん作って。僕は書斎に戻るから、出来たら呼びに来てもらえる?」
 そう言って、彼は私の返事を待たずにキッチンから出て行った。
 私は呆気に取られながら、出ていく彼を見送る。
(ごはんが出来るまで、ここで待つんじゃなかったの?)
 昼食の催促からデートの誘いになり、なぜか急に仕事へ戻ってしまった。彼の行動原理がよくわからない。
 これもまた田村さんの言っていた『目標を定めたらそこに向かって一直線』ということなんだろうか……?
(もっと慣れたら、透真さんの気持ちも少しは読めるようになるのかな?)
 このままでは、必要以上に振り回されてしまいそうで、先のことがちょっと心配になってしまった。

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  1. 「甘えた男とチョロイン事典」(夢中文庫/水口めいさん漫画・深志美由紀原作)
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