【1話】恋甘キッチン~溺愛社長の一途な独占欲~

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(どうしよう……私、とうとう無職になってしまった!)
 私こと馬渕まぶち里歩りほは、正午を過ぎたばかりのまだ明るい街中を、おぼつかない足取りで歩いていた。
 先月末、勤め先の上司から退職勧奨を受けたのだ。
 就職先はいつ潰れてもおかしくないような零細企業。人手は常に足りず、事務職として採用されたものの、職種に関係なく全員が営業にも回るよう指示されていた。
 でも私は、内気な性格と生まれつきの虚弱さが災いし、入社してから一件も契約を取れていなかったのだ。直属の上司はギリギリまで庇ってくれたのだが、社長はわざわざ私のところまで来てこう言った。
「来月までに契約が取れなかったら、辞めてもらうよ」
 生まれつき身体が弱く、成人してからも、疲労やストレスですぐに身体を壊してしまう虚弱体質。普段はかなり気をつけて生活しているのだが、この一ヶ月は首がかかっているのもあり、死に物狂いで頑張った。
 精神的にも体力的にもキツい外回りに毎日出かけ、睡眠時間を削りながら商品知識を頭に叩き込む。そうして取引先にも新商品の売り込みを積極的に行った。でも、そう簡単に上手くはいかない。
 なんとか努力したものの、契約は一つも取れず、疲労とストレスで体調はどんどん悪くなっていった。
 青ざめた顔で客先へ行っても、契約どころかこちらの体調を心配され、「早く帰りなさい」と言われてしまう始末。周りにもすっかり役立たずの烙印を押され、結局最後は自分から辞めると言わざるを得なかった。
 そして今日、退職の手続きと片付けをすべて済ませ、会社を後にしたのだ。その瞬間から、私は正真正銘の無職になった。
(あんなに苦労して就職したのに)
 私は駅までの道を、肩を落としながら歩いた。
 就職活動も大変だったのだ。ストレスに弱く、すぐに体調を崩してしまうからなかなか予定通りにいかない。内向きで人見知りな性格も、就活では不利に働いた。
 だから、ようやく採用通知を貰えた時は、本当に嬉しかった。それなのに、結局一年も保たなかったのだ。
(悔しい)
 私は溢れそうになる涙を誤魔化すように鼻をすすり、上を向いた。
 小さな頃から友だちの輪にはなかなか入れず、たまに入れてもみんなの後をついていくことは出来なかった。同じ年の子たちより身体が小さくて体力がなく、走ってもすぐに息が切れてしまう。そのせいで、よく置いてけぼりにされた。
(また、ついていけなかった)
 せめて私に人並みの体力があったら……。
 生まれつきの体質で、どうにもならないことだとわかっていても、つい考えてしまう。
 ――身体さえ丈夫だったら、これまでとは全く違う人生が送れたかもしれないのに、と。
(これからどうしたらいいんだろう)
 仕事がなきゃ生きていけない。まだ実家にいて両親も揃っているからいいけれど、その先はどうしたらいいのだろう?
 二十三歳の今ですらこの調子なのに、これから体質が改善するとは思えない。
 考えれば考えるほど暗い未来しか浮かばず、私は涙で滲む視界の中、重い足取りで家路を辿った。

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