【20話】強引御曹司に注がれる溺愛の味

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「本日より、営業部に入ってもらう道井涼子さんです。弊社がお世話になっている八王子のさきもり工業さんで総務と営業、両方の事務をしていらしたそうです。道井さんには小野おの部長の……、あれ、小野部長は?」
 営業部の事務に配属された涼子を紹介した営業部主任が、広いフロアを見回す。すると部のひとりが涼子たちの後ろを指さした。
「あ、小野部長、戻ってきましたよ」
 主任と一緒に振り向いた涼子は、言葉を失った。
「すまない。ちょっと向こうが押してて。もう挨拶は終わった?」
 こちらへ向かってきたのは……容姿端麗な背の高い、「サロン・ド・テ・宵待」で出会った、あの男性だ……!
「小野蒼真です。よろしく、道井涼子さん」
「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いしま、す!」
 差し出されたまぶしい笑顔と両手に動揺しすぎて、噛んでしまった。
 涼子も恐る恐る手を差し出すと、温かな手でぎゅっと握られる。確かに知っている感触だった。
 彼は涼子の手を離し、こちらを見ている部のみんなへ顔を向ける。
「崎の森工業の社長に直々に頼み込んで引き抜いた、俺の補佐役として働いてもらう道井さんだ」
「えっ?」
 蒼真の体温を感じていた涼子は、その言葉に声を上げていた。営業事務とは聞いていたが、彼の補佐などという話は初耳だ。一斉に起きたざわめきの中、営業事務と思われる女性がふたり立ち上がる。
「小野部長の補佐なら私がやります……!」
「いえ、私がやります。営業事務では私が一番長いので、小野部長の補佐にふさわしいかと」
 涼子くらいの歳の可愛らしい女性と、眼鏡をかけたスタイルの良い女性が争うように発言する。
「いやいや、君たちは自分の仕事で手一杯じゃないか。優秀な人材をてこずらせるわけにはいかないと前から考えてたんだよ。というわけで、道井さんに色々教えてあげてほしい。よろしく頼むよ。ね?」
 彼が笑顔を振りまくと、顔を赤らめたふたりは渋々といった具合に口を噤んだ。仕事で納得がいかないから立ち上がったというのではなく、どう見ても蒼真に好意を寄せているようにしか感じられない。
(そんな人たちの中で、いきなり私みたいなどこの誰ともわからない人間が部長補佐をするなんて納得いかないよね。それはわかるし、どうしよう……面倒なことになるかもしれない)
 涼子の思いを知ってか知らずか、蒼真の表情は笑みをたたえたまま変わらない。
「では各自仕事に取りかかってください。昨日の報告については小野部長に――」
 主任の声でざわめきは止み、それぞれデスクに着き、外回りの者は出ていった。
 涼子は隣にいる、蒼真に違いないと思われる小野部長をまじまじと見つめた。
(確かにあの人よね? 名前も同じだし、間違うはずがない)
 心のつぶやきが聞こえたのかと思うタイミングで、彼が涼子を見下ろす。視線が合ってしまった。涼子の頬がとたんに熱くなり、心臓が早鐘を打つ。これは緊張しているからだ。それ以外の意味などない、と自分に言い聞かせる。
「道井さん、早速頼んでいい?」
「は、はい……!」
「そんなに緊張しないでよ。じゃあ、そこのデスク使って」
 微笑む蒼真に肩をぽんと叩かれた。触れられたそこから体中が熱くなる。
(彼は何も動揺していないみたいだ。もしかして、私のことを覚えていないとか? 顔も下の名前も同じなんだから、いくらなんでもそれはないだろうけど……。そもそも彼が私を直々に引き抜いたって、どういうこと? 私だと知っててこの会社に呼んだの?)
 頭の中はパニックになりそうだったが、連れられたデスクに着く。蒼真に三種類の資料を渡されたが、前の会社にいた時と似たものだったため、迷わず作業を開始できそうだった。

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