【18話】強引御曹司に注がれる溺愛の味

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「……さむ」
 涼子はコートを羽織り、歩き出した。秋らしい空は真っ青に澄み、遠くを鳥が飛んでいる。土曜の朝はまだ人が少なく、周辺の店は閉まっていた。
(確かに癒された、と思う。あんなふうに乱れたことだってない。いい夢を見させてくれて感謝します、蒼真)
 ついさっきまであった蒼真の温もりを忘れないよう、涼子は自分の体をコートの上からそっと抱きしめた。

 サロン・ド・テ・宵待を後にした日から、十日が経とうとしている、十一月の初め。
 すぐにでも会社を辞めたかった涼子だが、ちょうど繁忙期の最中だったため迷っていた。
 だが涼子は今日、辞表を出すことに決めた。仕事が落ち着くのはあと少し。引継ぎの期間を設けてそれらを終わらせ、十一月中には辞めたい。十二月に入ったら年末の繁忙期が待っているため、辞めるなら今のうちだ。
「涼子、本当に辞めるの? 大丈夫なの?」
 仲がいい、同期の芳美よしみが訊ねてくる。
「うん。貯金もあるし、しばらくは大丈夫だよ。どうしようもなくなったら静岡の実家に帰ろうと思って。いろいろありがとね」
 蒼真に出会った翌日から、少しずつ食欲は戻っていた。昼休みにこうしてランチに出かけられるまでになっている。
「涼子が辞める必要ないのに。悪いのはあの男なんだから」
「そうなんだけど、さ。でも周りから見たら私が悪者だもの。居づらいし……いたくないんだ」
 元カレの婚約者の女性、河野が乗りこんできたことは、あっという間に狭い社内に広がり、工場のパートの人たちにまで伝わっていた。涼子に同情してくる人、陰で最低だと囁く人、根掘り葉掘り聞いてくる人――この二週間で涼子は何度もいたたまれない思いをしてきた。だから会社を辞めることになんの未練もなくなっていたのだ。
 辞表を出すと決めた今、意外にもさっぱりした気持ちでいられるのは、蒼真に出会ったことで気持ちに踏ん切りがついたからなのだろうと、涼子は思っていた。
 美味しいと感じられたランチを終え、自分のデスクに戻ると、なぜか社長室に呼ばれた。何かとんでもない迷惑をかけたのだろうかと冷汗を掻きながら社長室へ向かったが、先日の騒動以外、思い当たる節はない。
「道井です。失礼します」
 社長室に入ると、そこには社長と秘書、そして涼子の上司の主任がいた。彼らに一斉に視線を向けられて体が硬直する。
「道井さん、すまないね。仕事中に」
「いえ、とんでもありません。あの、私が何か……?」
 社長と主任に目で問いかけると、主任は心配そうな顔をしてこちらを見るだけだった。咳ばらいをした社長が話し始める。
「品川のオーノデザイン社は知っているね? 我が社の大切な取引先だ」
「はい、存じております」
 オーノデザイン社とは、こちらが下請けの立場になる取引先だ。独自のブランドを持ち、インテリア、服飾、雑貨、食品、不動産等を展開させ、国内で有数の専門店事業を運営する大企業だ。最近では海外にも進出している。
 涼子が勤めるのはオーノデザイン社のインテリア雑貨の一部を作る、プラスチック工場を経営する会社である。
 オーノデザインと自分に何か関係があるとは到底思えず、涼子は話のつながりが見えない。首をかしげる涼子から、わずかに目をそらした社長が話を続けた。
「いや、急な話なんだが、道井さんには我が社を辞めて、あちらで働いてほしいんだよ」
「え?」

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